IMF・世銀の年次総会

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IMF・世銀の年次総会が48年ぶりに日本で開催されている。折からの日中対立を背景に、今や世界第二の経済大国になった中国の金融当局トップが「日本の面子をつぶす」のを目的に参加しなかったというハプニングが起きたが、それは別として、肝心の議論には実りあるものが見られたか。どうも、あまりはかばかしくはないようだ。

IMFと世銀は、戦後世界の経済秩序を支える二本の巨大な柱だった。IMFは経済成長に必要な資金を貸し出すことを主な目的にし、世銀のほうは開発途上国の発展のために様々なプロジェクトを援助してきた。しかし、近年は存在意義が薄れてきているばかりか、経済発展に対してマイナスな影響を及ぼす事態が目につくようになった。ノーベル経済学賞受賞者スティグリッツ教授は、そうしたIMFのマイナスの実態について、「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」の中で詳細に暴露している。

スティグリッツ教授の結論は、IMFは設立の趣旨であった世界経済の安定と成長への寄与という精神を忘れて、たんなる金貸しになり下がったというものである。いまのIMFには、世界経済の安定とか成長といった視点はない、あるのは貸した金をいかに安全に回収できるかという思惑だけだ、と言うわけである。

現在の世界経済にとって最大の問題になっているのはユーロ危機であり、またリーマンショック後停滞した先進国経済の立て直しである。しかしIMFがこれらの問題に適切に対応できているとは誰も思っていないようだ。それほどIMFの存在意義は薄まってきている。スティグリッツ教授がいうように、自分が本来なすべきことを忘れて、見当違いなことばかりしているからだろう。

そのIMFが日本経済にもアドバイスをしてくれている。何しろエジプトで予定していた総会を開けなくなって、その代役を急遽日本に努めてもらったわけだから、それくらいのサービスは当たり前といったところだ。

しかしサービスにしては、余り魅力がない、そう受け取ったのは筆者だけだろうか。

IMFの日本経済へのアドバイスは「国際金融安定性報告書」の中で述べられている。その中でIMFは日本政府による巨額の財政赤字に懸念を表する一方、銀行部門が国債を大量に保有している点に警鐘を鳴らした。そして歴史的な低水準にある日本国債の金利が、今後上昇に転じて国債価格が下落すれば、銀行は大きな損失を抱えることになり、金融の安定性を脅かすと警告した。

どれもわかっていることで、いまさら他人から指摘されるまでもない。銀行による国債保有の増加は民間に資金需要がないことの裏返しに過ぎず、歴史的な低金利もそのパラレルな現象だ。要するに日本経済が今抱えている問題は、企業の資金需要の不足なのであり、その背景には、リチャード・クー氏のいうバランスシート不況がある。どうも日本のバランスシート問題はまだ抜本的に解決されていないようなのである。

しかしIMFには、日本経済を深刻な状態に陥れている真の原因は問題にならないようだ。彼らにとって問題になるのは、日本の銀行が深刻な危機に直面する可能性であり、それが世界経済に与える打撃であり、その結果金融秩序に不信の目が向けられることへの恐れなのである。つまり金融業者としての視点から、日本経済を心配しているわけだ。


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