若者向けの労働相談機関POSSEを運営している今野晴貴氏によれば、2008年のリーマンショックを機に増えたそうだ。それまでは、フリーターとかロスジェネとか言われる非正規雇用が大きな社会問題になっていたが、最近は、折角ありついた正規雇用の職場で、使いつぶされて健康を壊したりうつ状態になったりして、やめざるをえない若手社員が増えているという。
そういう境遇の果てにPOSSEに相談に来る若者たちには、「自分が悪かったのだ」と自己否定している人が多いという、今野氏によれば、彼等は会社から「低能力者」のレッテルを張られて自己否定に陥っているが、実際には会社から達成不能のノルマを課せられて、それができないことを理由に、見せしめのいじめにさらされ、自分からやめた形にもっていかされたのだという。
そういう会社は、大量の若者を採用して、若者の間で過酷な競争をさせ、それに勝ち抜いた一部の者だけを残し、大部分は切り捨てる。切り捨ててもその跡はいくらでも埋まるからである。企業はそのことを逆手にとって、「お前の変わりはいくらでもある」と、若手社員を脅し続けるのだそうだ。
こういうことがまかり通っていることの背景には、会社の過大な命令権を容認してきた日本の企業文化も働いていると氏はいう。「単身赴任もサービス残業もして滅私奉公する正社員」のイメージが、若手社員を使いつぶすことにつながっているというわけだ。
また、労働分野における規制緩和なるものも大きくかかわっていると考えられる。いまや労働基準法は骨抜きにされ、労働時間の上限などあってないに等しい。会社は人間の生理的限界を超えてまで労働者を働かせることができる。産業奴隷制資本主義としかいいようのない異常な労使関係が幅をきかせている。
氏は、労働時間の上限を法的にしっかりきめ、曖昧な日本的雇用に替る、新しい「みんなが納得できる明確なルール」を作ることが必要だと強調する。
たしかに、今日の日本の労働市場は異常な現象を多々生み出していると思われる。小泉構造改革により労働分野での規制緩和が進んだ結果、当初は非正規雇用とかワーキングプアとかが社会的な問題となったが、最近では、正規雇用の分野でも労働者に対する企業の抑圧体制が強まっている。小泉改革の行き着いた先だ。ここらで原点に返り、人間に相応しい労働・雇用のあり方を確立しないと、日本は次第に沈没していく恐れがある。
(参考)「ブラック企業」と呼ぶ意義(朝日新聞2013年1月22日夕刊)
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