錯綜する日本の政党政治

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安倍内閣が発足して2か月近くが経ち、国会論戦も始まった。そんななかで安倍政権はいまのところ右翼的なプロパガンダは自重して、経済の活性化に的を絞った動きをしている。そこがある程度効果を上げていると国民から評価されているようで、支持率は非常に高く、また海外の安倍政権を見る目にも好意的なものが多い。だが、それだからこそ、この政権をどのように受け取ったらよいのかと、非常なとまどいの源泉ともなっている。

安倍政権の政策をおおまかにいえば、政治的な主張においては右翼的な一方、経済政策においては左翼的だということだ。これは現在の主要国の政党のあり方からいえば非常に珍しい政策ミックスだ。欧米では、保守政党は新自由主義的な経済政策をとり、中道リベラルないし社民政党は大きな政府をめざすというのが普通だからだ。日本の自民党のように、保守主義と大きな政府の組み合わせと言うのは、欧米の過去の歴史においては少ないながらあったが、近年はほとんど消滅した。大きな政府を目指すのは、いまではリベラル乃至社民政党に限られている。つまり保守政党とそれ以外の政党との間で、政策ミックスの違いが明瞭になってきたといってもよい。

もっとも、自民党が保守主義と大きな政府のミックスを追求するあり方は、今に始まったことではなく、高度成長期以来の伝統的な路線であったといってもよい。自民党には保守本流意識というものがあったが、それは、憲法の尊重とサンフランシスコ体制の重視を中心にすえた立場で、保守主義といいながらもかなり開かれたスタンスであったし、また経済政策的には結構大きな政府を容認していたのである。そうした流れが変わったのは中曽根政権以降のことであり、それを小泉政権が引き継いで、自民党の政策軸を欧米の保守政党並みに、保守主義と小さな政府の組あわせに定めたといえるのだが、それが安倍政権になって、中曽根以前の自民党に逆戻りしたというわけなのである。ともあれ現在の世界の先進国における政党政治の状況から見れば、今の日本の保守政党たる自民党は非常にユニークな存在だということが出来よう。

さて、現時点における日本の政党政治の特殊性は、有力な野党が事実上消えてしまったということである。つい最近まで、日本には与野党の対立という政治的な環境が成立し得ていた。対立と言うのは、与党の政策を有効に批判しえ、与党が失敗した時には、国民の批判の受け皿になりうるような野党が存在していることを前提にしている。ところが今の日本では、このような意味合いでの野党が消滅して存在しないのだ。

与党以外の政党を野党と呼べるのであれば、そうした形式的な意味での野党は無論存在する。が、それは政権に与っていないという意味合いがあるだけで、先述したような野党の要件を備えていないばかりか、維新やみんなといった政党は、基本的には保守主義を標榜しており、与党の自民党とは価値観を共にするところが多いくらいだ。みんなの党は保守主義と小さな政府のミックスをめざすところからわかるように、国際的な基準からすれば自民党以上に保守主義的な政党だ。維新も太陽と野合したことが示すように、場合によっては自民党以上に右翼的な性格を持っている。民主党にしてからが、一時期はリベラルを標榜しながら、今も果してそうなのかはっきりしない。

こんなわけで日本の政党政治には、欧米で一般的なような状況が存在しない。政党の間で対立軸が明確でなく、一党だけが抜きんでているなかで、その抜きんでた自民党が、国際的な流れとはかなり異なった流れを追求している。そんなふうにいえるのではないか。


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