オリンピック種目からレスリングが除外されるかもしれない

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レスリングといえば第一回目のオリンピックから演じられてきたもっとも伝統ある競技だ。なにしろギリシャ・オリンピックの時代から主要な競技種目であったわけだから、その伝統には悠久の歴史を感じさせるものがある。ところがこの伝統ある競技が、2020年の大会から除外される可能性が出てきた。

そう報じられると日本のレスリング界はパニックに陥った。レスリング界だけではない、日本人全体がショックをうけたといってよい。なにしろレスリングは日本の数少ない得意種目の一つであり、これまで多くのメダルを獲得してきたばかりか、女子部門にあっては今でも世界をリードする立場にあるわけだから。

レスリングはアメリカ人にも人気があるらしく、除外に関する記事がニューヨークタイムズに載ったところ、フェイスブックのクリック件数が最大を記録したということだ。アメリカでは球技と並んで格闘技の人気が高く、レスリングについては、アマチュア、プロレスどちらも大変な人気を集めているばかりか、アマチュアレスリングは日本と同じくらい広い競技人口を抱えているという。そんなお国柄だから、レスリングがオリンピックから消えてしまうことに、強い反応を示すわけだろう。

どういう理由からレスリングが外される可能性を付されたかについて、IOCは明らかにしていない。中核競技とされる25の種目リストに、理事たちの投票によって選ばれなかったといわれているだけだ。そこで、色々な推測が独り歩きするように流れている。

そのひとつは、他の種目に比較して、レスリングは商業価値が低いということらしい。最近はテレビ中継のほかにネットを通じてのスポーツ中継なども普及してきており、視聴者の動向が手に取るようにわかるようになったということだが、そうした動向を見ると、レスリングは一部の国でしか人気がなく、国際的にみると、視聴率という点ではマイナーな部類に入るらしい。今の時代のオリンピックは、商業資本によって支えられているところが多いから、商業価値が小さいということは致命的な欠陥になる。

二つ目は男女間のバランスが悪いということらしい。今の時代のスポーツは男女がともに、しかも平等に楽しめるというのが最低の存在意義になっている。だからオリンピックに入っているスポーツはどの競技をとっても、男女に分け隔てのないルールを課すことを求められている。ところがレスリングはそういう要請を満たしていない。だいたい女子に門戸が開かれたのがつい最近のことに過ぎないし、それも男子に比べて不平等な条件を課せられてのことだった。男子の場合にはグレコローマン、フリーのそれぞれが7階級に別れ、合計14の種目があるのに対して、女子の場合には、体重別に4つの種目があるに過ぎない。これはどう考えても性差別だ。そう受け取られても仕方のないところがある。

以上はレスリング協会が抱えている問題である。商業価値を高めることはそう簡単にはできないかもしれないが、男女のバランスは今すぐにでも改善できる。

これ以外に、レスリング協会の努力の及ばないことがある。それは、イスラム圏への配慮という問題だ。レスリングは肉体の大部分を人目にさらすスポーツであるから、女子の肉体をさらす度合いの高いレスリングは、イスラムの人々には受け入れがたいところがある。いままではオリンピックに対するイスラムの目を気にすることがなかったのだが、気にせざるをえないような事態が迫ってきた。2020年の大会がイスタンブルで開かれる可能性が強まってきたことだ。仮に、2020年の大会がイスタンブルで開かれることになった場合、IOCとしては、女性の扱いについてイスラム諸国に相当配慮しないではならない立場に陥る。だから、そもそもそんな問題を抱えている種目自体をオリンピックから除外しておけば、余計な苦労をしないでも済む。どうもそんな思惑が今回の措置に働いているようなのだ。

もしそうだとしたら、2020年のオリンピックをイスタンブルで開催するということは、多くのIOC委員たちの既定方針になっているのではないか。そう考えさせられるところだ。(写真はNYTから)





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