花は咲く

| コメント(0)

130309.hana.jpg

NHKが東北復興支援ソングとして流している「花は咲く」が、いまや国民の広い範囲で歌われているという。昨年末のNHKの歌番組「紅白歌合戦」でも、西田敏行さんら東北ゆかりの人たちが中心になって歌っていた。それぞれが一枚のガーベラを手にしながら歌い継いでいった歌声は、それを聞く者の心を癒したに違いない。

この曲の解釈について、宗教人類学者の山形孝夫氏が興味深い見解を朝日の夕刊に寄稿していた。(3月12日夕刊)それは「"花は咲く"死者と語る歌」と題されていたことから伺われるように、残された人に向かって、死んでしまった人が歌いかける歌だというのだ。

残された者が歌う。「叶えたい夢もあった、変りたい自分もいた、今はただなつかしい、あの人を思い出す」すると「誰かの歌が聞こえる」。その歌は「花は咲く、花は咲く、わたしはなにを残しただろう」という。その歌は誰かを励ましている。だけど励ましているのは誰で、その人は誰を励ましているのだろう。この問いに、歌っているのは死者で、死者が励ましているのは生き残った人なのだ、と山形氏は解釈するのである。

この解釈に接して筆者は複雑な気持ちになった。死者は本来荒ぶる霊であり、生者のほうから鎮め慰めるべき対象だというのが、古来日本の宗教文化の本質をなす考えであった。死者の方が生き残った者を慰めるという発想はなかったのだ。だから筆者は、この歌が、死者が生き残ったものを慰めているとする解釈には腑に落ちないものを感じたのだが、それにしては、この歌には生き残った者を慰める確固とした癒しの効果がある。

昨夜(3月13日)、この曲をテーマにした番組をNHKが放送した。

番組には作詞者の岩井俊二さんと作曲者の菅野よう子さんも登場した。岩井さんは、震災直後に咲いた一輪の花に命を感じてこの歌を作ったと言っていた。

菅野さんは、被災地の小学校生徒たちの合唱を指導していた。一人の少女が、震災でほとんど何もかも失ったけれど、歌だけは失なわなかったと言った。

ウィーンの少年合唱団は、近く日本を訪問する予定だが、その際にこの歌を歌うことになっている。稽古中の彼らは、この歌は希望を感じさせると言った。

この歌を歌い継いできた西田敏行さんは、希望の花が咲くまで、この歌を歌い続けたいと言った。


 





コメントする

アーカイブ