キプロス危機のわかりにくさ

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地中海の小島国キプロスを舞台に起きた経済危機騒ぎが世界の耳目を集めた。金融危機に陥ったキプロスに対してEUが救済に乗り出したが、その条件としてキプロスの銀行預金について特別の課金をするように求めたところ、当然のことながらキプロス国民が大反対、与党がEUの意図を受けて提案した法案はあっさり否決された。そこで、キプロスの経済危機は解決の目途がたたなくなったばかりか、銀行預金は一部機能を除いて閉鎖されたままという異常な事態に陥っている。銀行機能を再開すれば、大量の預金引き出し騒ぎが起こるほか、外国からの資本の流出に拍車をかけるという理由からだ。

この事態の背景にはギリシャの経済危機がある。キプロスはギリシャとの関連が深く、キプロスの銀行はギリシャの国債を多量に購入していた。そこへデフォールト騒ぎが起こって、キプロスの金融機関は甚大な損害を被った。普通ならとっくに破産していておかしくないところが、今日まで生き延びてこられたのは、ロシアからの巨額の資金流入があったからだといわれる。しかし、それでも足らずいよいよ事態が深刻化し、今回の騒ぎに発展したということらしい。

EUが、銀行預金の強制収用と言う異常な条件と引き換えに救済を申し入れたことには複雑な背景があるようだ。普通なら、倒産しかかっている銀行の預金でも保護するというのが、金融秩序を守る上での鉄則である。それを、預金者の犠牲において銀行を救済しようというのは、邪道中の邪道と言うべきだ。その邪道を何故EUの当局は選んだのか。

実は、キプロス経済はロシアと深い関係を持ち、キプロスの金融機関にはロシア資金が大量に流れ込んでいるという。その背景には、キプロスとロシアとの文化的な共通性も大きく作用しているらしいが、もっとドライな面に目を向けると、キプロスはロシア資金を誘致するために様々な仕掛けをしてきた経緯がある。たとえばタックスヘブン政策だ。キプロスは外国資本に対して税制はじめ様々な優遇措置をとっているが、もっともその恩恵を受けているのがロシアで、その結果キプロスの銀行預金総額の3割はロシア資金と言うような状況が生じた。したがって、危機に陥ったキプロスの金融機関を救済することで最も恩恵を受けるのはロシア人だと言われているほどだ。今回のEUの条件にキプロス人が怒ったのはもっともなことだが、それ以上にロシアのプーチン大統領が怒ったとされていることの背景には、こんな事情がひそんでいたということらしい。

キプロスは人口90万に満たない小国だ。キプロス島という小さな島にギリシャ系住民とトルコ系住民が住んでいて、トルコ系の方は北キプロス・トルコ共和国と言う自主政府を立ち上げて勝手に独立していった。こんな事情だから、キプロスの経済危機がユーロ圏に及ぼす影響はたかが知れているとみなされている。それゆえEUとしては、キプロス救済には余裕を持って臨み、しかもロシアなどの外国資本にもそれ相応の負担をさせようと考えているようである。(写真はEconomist から)


 





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