財政規律と経済成長:ラインハート、ロゴフ説への疑問

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アメリカの経済学者者カーメン・ラインハート(Carmen Reinhart)とケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)が2010年に発表したいわゆる90パーセント理論は、ユーロ圏の経済官僚やアメリカ共和党の武器として重用されてきた。その理論と云うのは、政府の借金がGDPの90パーセントを超えると、その国の経済成長が鈍化するというものだ。それ故、経済成長を長期的に続けていくためには、財政規律を徹底しなければならない、という主張の有力な根拠とされたわけだ。

ラインハートとロゴフは、主要先進国の過去2世紀にわたる経済データをもとに、この仮説を導き出した。経済トレンドを追っていくと、とくに戦争で政府の借金が積み重なった戦後などに、政府の借金がGDPの90パーセントを超えると、成長率はマイナスになっている。そこから二人は、いわゆる90パーセント仮説を導き出したわけである。

ところが、同じくアメリカの経済学者、トーマス・ハーンドン(Thomas Herndon)、マイケル・アッシュ(Michael Ash)、ロバート・ポーリン(Robert Pollin)が、殆ど同じデータを使ってシミュレーションしたところ、必ずしもラインハート、ロゴフ説のようにはならなかったとの研究が最近出された。彼らによれば、政府の債務がGDPの90パーセントを超えても、一気にマイナス成長になるわけではない。90-120パーセントの範囲内では成長率は2.4パーセント、120パーセントを超えても1.6パーセントと云う具合に、漸減の傾向は認められるものの、あくまでもプラスの傾向が維持される。というのだ。

両者の研究結果が異なったことの背景には、ラインハート、ロゴフのシミュレーションがデータ不足だったという事情が働いているらしい。当人たちもそのことを認めているという。

ともあれ、ラインハート、ロゴフ説は、ユーロや共和党の財政規律論者たちを鼓舞してきただけに、今回のこの研究成果が、財政規律を巡る議論に一石を投じるのは間違いないようだ。

(参考)90% question A seminal analysis of the relationship between debt and growth comes under attack:Economist





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