浣花女:陸游を読む

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陸游の七言古詩「浣花の女」(壺齋散人注)

  江頭女兒雙髻丫  江頭の女兒は雙髻丫(きつあ)
  常隨阿母供桑麻  常に阿母に隨って桑麻に供す
  當戶夜織聲咿啞  戶に當って夜織れば 聲咿啞たり
  地爐豆秸煎土茶  地爐の豆秸 土茶を煎る
  長成嫁與東西家  長成すれば嫁與す 東西の家
  柴門相對不上車  柴門相ひ對して 車に上らず
  青裙竹笥何所嗟  青裙 竹笥 何の嗟する所ぞ
  插髻燁燁牽牛花  髻に插すは 燁燁たる牽牛花
  城中妖姝臉如霞  城中の妖姝 臉(かほ)霞の如し
  爭嫁官人慕高華  爭ひて官人に嫁し 高華を慕ふ
  青驪一出天之涯  青驪 一たび天之涯を出づれば
  年年傷春抱琵琶  年年 春を傷みて 琵琶を抱く

浣花渓の川のほとりの女児はおさげを二つに分け、母親につき従って桑や麻の作業を手伝いする、夜は戸口の所で機を織ればその音が響く、囲炉裏にくべられた豆柄は茶を煮るためだ(髻丫:おさげ髪のこと、丫は二股になっているさま、咿啞:ギイギイとする音、地爐:地面に掘った囲炉裏)

成人すれば隣近所に嫁いでいく、家が近いので車に乗ることもない、嫁入り道具は青いスカートと竹の箪笥、簪にかしているのは朝顔の花(嫁與:嫁にやられること、牽牛花:朝顔の花:七夕の頃咲くことから)

街中の美人たちは夕焼雲のような化粧をしている、みなお役人に嫁入りして贅沢な暮らしをすることを目指す、しかし腰入れして一たび故郷を離れれば、そのうち夫に忘れられて、春を痛み琵琶を抱いて空しく過ごすことになるのだ(妖姝:妖艶なさま、美女のこと、臉如霞:顔を夕焼雲のように化粧すること、青驪:青毛の馬、輿入れの馬車に使う)


淳熙4年(1177)成都での作。浣花渓は成都を流れる川。その川沿いに暮らす貧しい家の女性と、市内に暮らす富裕な家の娘とを対比させながら、人間の幸福と言うものは、物質的な豊かさだけでは計られないと歌う。


関連サイト:漢詩と中国文化 





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