夢は閉じられた:藤圭子の死を悼む

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筆者が藤圭子の歌を始めて聞いたのは、いわゆる歌番組の中ではなく、テレビニュースを見ていた時だった。そのニュースは、新人歌手として売出し中だった彼女を紹介しながら、「夢は夜開く」の歌声をバックで流していただけだったのだが、それを聞いた筆者は、すっかりその魅力に囚われてしまったのである。それは衝撃と言ってよかった。その頃、日本の歌謡曲など殆ど聞いたことがない筆者だったが、彼女の歌だけは、人をして耳を傾けしむるものがある、と感じた次第だった。

彼女の歌声は何故人の心を引きつけるのか。そんなことを考え出すときりがないが、要するに、一人の人間の魂が、他の人間の魂に、なにものをも媒介せしめず、ストレートに働きかけるということなのだろう。彼女の歌声は、ただの歌声ではなく、魂の震える音のように聞こえる。だからそれを聞く人は、耳ではなく、心で聞く、ということなのだろうか。

そんな藤圭子が、飛び降り自殺をして死んだ。何が彼女を死に追い詰めたのか、それはだれにもわからない。だから、一人の、今を生きている人間として、彼女の冥福を祈るばかりだ。閉じられた彼女の夢に思いを馳せながら。







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