アメリカは何故シリア攻撃に前のめりなのか

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先日シリアでおきたとされる毒ガス攻撃について、アメリカはこれをアサド政権の仕業だと断定して、懲罰的な軍事制裁を加える姿勢を強めている。これには当初イギリス、フランスの両政府も同調し、仮に国連安保理事会の決議なしでも、攻撃は可能だと息巻いていた。しかしその後、イギリスでは、下院がシリア攻撃を否認したため、キャメロン首相は俄にトーンを落とした。またフランスも国民の反対を考慮せざるをえなくなりつつある。当のアメリカにしても、シリア攻撃を支持する世論は9パーセントしかないという報道もある。要するに、アメリカのシリア攻撃については、国際世論からも、国内世論からも強力な支持が期待できない状況に陥っている。

それにも拘わらず、アメリカのオバマ大統領は強気で、国連安保理事会の決議がなくとも、また同盟国の支持が得られなくとも、つまりアメリカ単独でも、シリアに軍事制裁を加える姿勢を変えていない。何故、そうまでこだわるのか。

世上色々な憶測が流れされているが、それらを簡単にまとめると、ひとつにはアメリカの威信、もうひとつにはオバマ大統領の面子ということらしい。

アメリカは衰えたりといえども、今でも世界一の巨人国家として、世界秩序の維持に巨大な役割を果たしている。それを理論的にも実践的にも支えているのが民主主義と基本的人権というイデオロギーだ。シリアの状況は民主主義にとっての挑戦にほかならないし、それを措いても、毒ガスで無差別に国民を殺戮するというのは人道的に許されることではない。そういう行為を放っておいては、世界秩序も何もあったものではなくなる。したがってこれに制裁を加えるのは、神の意思というべきなのだ、というわけだろう。

また、オバマ大統領はかねがねシリア政府に対して毒ガス使用は超えてはならない一線、つまりレッドカードだと言ってきた。それを超えたら制裁を加えるぞという意味だ。ところがアサド政権はその警告をこともなげに無視して、簡単に一線を超えてしまった。それを見逃しては、オバマは立場がなくなるわけで、面子にかけてもシリアを制裁しないわけにはいかない、というわけだろう。

しかし、アメリカの威信にしても、オバマ大統領の面子にしても、そんなもので他の国に攻撃を加えることが許されるものでもあるまい。そんなことがまかりとおるようなら、国際法も何もあったものではなかろう。

実はアメリカ政府もオバマ大統領もそんなことは分かっているのかもしれない。わかっていながら、そんな無理なことを押し通そうというからには、そうせざるを得ない余程の事情があるものと考えずにはいられない。筆者はそれを、イスラエルへの配慮だろうと受け取っている。

シリアの毒ガス攻撃にもっとも神経を使っているのはイスラエルだ。今回はシリア国民に向けて使われた毒ガスが、いつ何時イスラエルに向けて使われるかもしれない。(アサド政権はイスラエルを敵対視している)したがって、シリアが仮にもそんな考えを起こさないように、完璧に予防措置を取っておく必要がある。つまり、今後毒ガスを使うようなことがあったらどんな仕打ちを受けるか思い知らせることで、シリアを毒ガス攻撃の誘惑から離さなければならない。そんな思いがあるのではないか。

こんなことを言っても、筆者は別にシリアの肩をもっているわけではない。アサド政権はひどい政権だ。それが国民を代表していないことは明らかだし、今までに10万人以上の国民を死に追いやり、200万人もの国民を難民と化した。こんなひどい政権は歴史上そうあったものではない。だからいささかも存続の正統性を持たない。

だからといって、外国が無闇に転覆すべきだということにはならない。ある国の政治体制は基本的にはその国の国民が選択するものだということはさておき、仮に国際社会の介入が要請される場合であっても、それは国際法にのっとって行われる必要がある。

アメリカの言い分としては、ロシアや中国のような国が国連の常任理事国におさまり、民主主義と基本的人権という普遍的な理念を尊重しないために、常に正義が通るとは限らない状況が生じている。だから国連をパスして行動することにも合理性はあるのだと主張したいのだろうが、それでもアメリカ一国の都合で他国を攻撃することには正義がないといわざるをえない。

ましてや、今回については、アメリカ国民の大多数がシリアへの軍事攻撃を支持していない。そうした状況の中で、オバマは果してシリア攻撃を強行できるのかどうか。よく考えてもらいたい。(もっとも、アメリカはイスラエルとは事実上の同盟関係にあるので、集団的自衛権にもとづいてシリアを攻撃するのだという理屈は成り立つかもしれない。その場合でも、両国が正式な軍事同盟を結んでいないことがネックになるだろう)







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