陸游の七言律詩「懐旧」(壺齋散人注)
身是人間一断蓬 身は是れ 人間の一断蓬
半生南北任秋風 半生 南北 秋風に任す
琴書昔作天涯客 琴書 昔 天涯の客と作り
蓑笠今成沢畔翁 蓑笠 今 沢畔の翁と成る
夢破江亭山駅外 夢は破る 江亭 山駅の外
詩成灯影雨声中 詩は成る 灯影 雨声の中
不須強覓前人比 須ひず 強ひて前人に比を覓むるを
道似香山実不同 香山に似たりと道ふも 実は同じからず
自分の身は世の中にあってもちぎれたヨモギのようなものだ、半生秋風に吹かれて南北をさまよってきた、昔は琴書を携えて天涯の客となり、今は蓑笠をまとって川のほとりで暮らしている(断蓬:根からちぎれてさすらっているヨモギ、琴書:知識人の象徴、蓑笠:猟師が身に着けるもの)
夢から覚めるとそこは江亭や山駅の外だったものだし、詩がなるのは灯影雨声の中でのことだった、自分を強いて前人に例えようとは思わない、白楽天ににているといわれるが、そんなことはない(江亭山駅:江亭は川沿いの東屋、山駅は山中の宿場、四川時代を回想している、香山:白楽天のこと、晩年香山居士と称したことから)
開禧元年(1205、81歳)の作、自分の生涯を振り返って詠んだもの。自分を一断蓬に譬えたのは、各地を転々として動き回った自身の半生を回顧してのことだろう。
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