魚もうつ病になる:NHKスペシャル病の起源

| コメント(0)
131009.depression.jpg

魚もうつ病になると聞いてびっくりした。魚も天敵に長い間直面して強いストレスを感じ続けていると、うつ病になるというのだ。そういっているのはNHKの特集番組「NHKスペシャル病の起源:うつ病~防衛本能がもたらす宿命」のナレーターだった。この番組は、うつ病の起源を追っていたのだが、うつ病というのは基本的には脳の病だということで、脳を持っている生き物なら誰でもかかる、と言いたいらしかった。脳はあらゆる脊椎動物が持っている。魚も脊椎動物のれっきとした一員だから、うつ病になるのは当たり前だ、ということらしい。

脳の中でうつ病の発症と関連が深いのは扁桃体というところだ。これは、本来は外的な危険が迫っている時に、その危険を気づかせて、危険に対して身構えさせる機能を果たしているが、これが必要以上に強く働くと、うつ病を発症するというのである。いわば防衛機構が暴走して発病する、それがうつ病ということらしい。防衛機構の暴走という点では、自己免疫疾患に似ている。自己免疫疾患も過剰な防衛機構が働いて、自分自身を傷つけてしまう。それと同じように、うつ病も扁桃体の自己防衛機構が暴走して、自分自身を傷つけてしまうわけである。

うつ病が脳の異変に起因するということが次第に分かってきたおかげで、治療方針にも化学的な裏付けが期待できるようになった。扁桃体に対して、薬や物理的な刺激を用いて働きかけることで、病状を緩和できる可能性が高まってきているのだ。かつてうつ病と言えば、分裂病と並んで精神に内在する疾患と思われてきたが、今日では、必ずしも精神的な要因ばかりでなく、脳という器官の器質的な欠陥に由来する部分が多いということがわかってきたわけだ。

この番組は色々なことを教えてくれた。人類とうつ病の関係に歴史的変遷があったというのは、そのもっとも興味深い部分だった。人類の中にはいまだにうつ病と無縁な人たちもいる。そういう人たちが何故うつ病にならないかを研究していると、逆に人が何故うつ病になるかも見えてくる。

この番組で、人をうつ病にさせる最大の要因は孤独だといっていた。人間というものは、チンパンジーと同じく集団を形成して社会的な生活を営むことを本質的なあり方とする動物である。今でもうつ病と縁のない人々は皆、孤独とは無縁な生活をしている。自分は孤独ではなく、仲間たちと強く結ばれている、そういう確信を持てる人々は、うつ病にはならないということらしい。

これを聞いた筆者には腑に落ちるところがあった。うつ病が爆発的に増えるのは産業革命以降の近代社会においてだが、そうした社会は、人類の歴史上初めて、人々が孤独であることが当たり前になった社会だったといえる。それまで多かれ少なかれ共同体の一員として、仲間との強い絆で結ばれていた人々が、仲間との絆から解き放され、孤独に生きるようになった。そうした生き方は、一方では自由の可能性を拡大させた一方、人々を孤独の寂しさに追いやり、そこからうつ病が生まれやすい状況が生じたのではないか。そんな風に思ったのである。

イギリスの詩人ジョン・ダンの詩などを読むと、そこには深い抑うつ感情が読み取れる。こうした感情こそ、人類が分断と孤独の時代に入ったことのあかしなのではないか。あらためてそんな風に思うのである。








コメントする

アーカイブ