Y-word は侮蔑語か:サッカーチームを巡る論争

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相手を貶めたり侮辱することを目的に使われる言葉を侮蔑語というが、言葉というものは面白いもので、当初は侮蔑語として使われていた言葉が、使われているうちにマイナスのニュアンスを失い、かえってプラスのニュアンスを感じさせるように変化する場合がある。たとえば日本語の"小僧"という言葉。これは相手の人格を貶める意味で使われ始めた言葉であるが、そのうち相手の可愛らしさを強調する言葉に変化していった。勿論使われるコンテクストによっては、侮蔑の意味を感じさせないことはないが、コンテクストさえ間違えなければ、侮蔑と受け取られることは少ない。

いまイギリスのあるサッカーチームを巡って、この侮蔑語を巡る論争が起きているという。プレミア・リーグの名門トッテナム・ホットスパーは、ロンドンの北部をフランチャイズにするチームだが、この地域にはユダヤ人が多く住むことから、相手チームのサポーターからユダヤ人を指す侮蔑語Y-word を浴びせられてきた。Y-word は正確にはYiddo と言ってユダヤ人の蔑称である。黒人を Nigger というようなものだ。

この言葉は典型駅な侮蔑語であったわけだが、長く使われる間に、侮蔑のニュアンスが薄らいできて、最近では、ほかならぬホットスパーのサポーターが自分たちをさしてYiddo と言うようになった。そこで、これは、黒人が自分たちの文化を強調して Black というのと同じで、何ら侮蔑的な表現ではない、というような言説が次第に高まってきたわけだが、最近英国フットボール協会が、この言葉の使用を禁じ、違反したものはピッチから締め出すと決めた。

これに対して、キャメロン首相が反発して、自分はホットスパーのサポーターだが、我々は自分自身でもこの言葉を使っているし、今では誰もこの言葉を侮蔑語だと感じる者はない、と言ったのだが、フットボール教会では方針を改める必要はないと言っているそうだ。協会によれば、ホットスパーのサポーターの9割以上は非ユダヤ人で、彼らは確かにこの言葉に侮蔑を感じないかもしれないが、ユダヤ人にとってはそうではない。だから、この言葉は禁じられるべきだ、と言う意見である。

この意見に対しては、一部ユダヤ人のサポーターからも異論が出ているようだが、英国ユダヤ人協会(Board of Deputies of British Jews (BDBJ))としてはフットボール協会の決定を支持しているという。

どうも複雑な問題になっているようだ。(写真はトッテナム・ホットスパーのサポーター:TIMEから)






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