イギリスが出稼ぎ労働者への福祉給付を制限

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EU内では、人の移動の自由の原則に従い、貧しい国から豊かな国への人の移動が大規模に行われてきた。その大部分は出稼ぎ労働者だ。ドイツやイギリスなどには、主として東欧の貧しい国から出稼ぎ労働者が大量に流入し、地元の若者たちが嫌う重労働などに従事してきた。そのことで受け入れ側は安い労働力を使うことができ、送り出す方では雇用の確保を図ることが出来たわけだ。いってみればウィンウィンの関係であったわけだが、最近は必ずしもそう言ってばかりいられなくなってきたようだ。受け入れ側の国に、外国からの出稼ぎ労働を規制する動きが見られるというのだ。

イギリス政府は、今年1月以降入国する出稼ぎ労働者に対して失業給付の申請を三か月以上禁止し、物乞いをした者は本国に強制送還すると発表した。ルーマニア人とブルガリア人の大量流入を防ぐのが目的だとの見方がもっぱらだ。この両国は2007年にEU加盟したのだったが、その際に、経過措置として7年間、移動の自由に制限を課した(労働許可証取得などの義務付け)。その措置が昨年いっぱいで切れるので、その後両国からの出稼ぎ労働者が雪崩をうって流入するのではないかと恐れたイギリス政府が、こうした措置をとったということらしい。

その背景には、ルーマニア人やブルガリア人が、イギリスの福祉給付の受給を目的として入国するのではないかとの見方がある。そこで福祉の給付をあらかじめ制限しておくことで、福祉目当ての外国人の流入に歯止めをかけたいということらしい。実際キャメロン首相は、「移動の自由は、自活できない者が福祉を貰うためにあるのではない」といって、こうした見方を裏書きしている。

こうした動きに接すると、筆者などは複雑な思いにとらわれる。それはEUというものの理念がどうなっているのかという疑問だ。EUは経済統合が最大の目的だが、それに合わせて政治的な統合も徐々に行われてきた。そのなかで、域内における移動の自由は、統合のエッセンスともいうべき重大な要素といえる。移動を自由にすることで、統合の成果を実質的に高めるとともに、統合を一層促進する効果をもたらす。

だから、貧しい国からの出稼ぎ労働者を、財政的に負担になると言う理由から、排除しようというのは、統合の精神にも自由化の精神にも反すると言わねばならない。調子のいい時には出稼ぎ労働者をさんざん利用しておきながら、ちょっと調子が悪くなると、出稼ぎ労働者の権利を制限しようというのは、あまりにも身勝手なやり方ではないのか。そんな風に感じさせられるのだ。

統合の理念をいうのなら、人の異動を制限するべきではない。人の異動を制限するのなら、統合を云々する資格はない。そういうことではないだろうか。イギリスにせよドイツにせよ統合のメリットを最大限に享受しておきながら、そのデメリットは避けたいという、身勝手なパフォーマンスが目立つようだ。







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