ピカソは、1938年1月から翌年にかけて、おもちゃを持ったマヤの肖像を、あわせて10点ばかり描いた。いずれも、ピカソ独特のデフォルメの手法を存分に発揮した作品で、ある意味では最もピカソらしい作品群である。
「人形を抱くマヤ(Maya à la poupée)」と題したこの作品は、それらのなかの第一号だ。肖像は極端にデフォルメされているので、これが子どもを描いたものと分ってもらうためには、それなりの工夫がいる。髪を少女らしく無造作にし、それに可愛いリボンをつけるのもその一つだが、人形を抱かせるというのも工夫の一つだ。
体はほぼ正面を向いているが、顔は横を向いているのか、正面を向いているのか不確かなところがある。二つの目は並んでついているのに、鼻が横を向いているせいで、中途半端な印象を与えるのだ。ピカソはこの構図が気に入って、以後いろんな作品で取り入れている。
なお、美術批評家の中には深読みをしたがる者もいて、少女に抱かれている人形には、ピカソ自身のイメージが盛られていると解釈するものもいる。そういう人にしたがえば、マヤはピカソの母親の投影だという奇妙なことになるわけだ。
(1938年、キャンバスに油彩、73.5×60.0cm、パリ、ピカソ美術館)
関連サイト:壺齋散人の美術批評
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