満州国化する日本?

| コメント(0)
「『満州国化』する日本」という聊かショッキングな題名のインタビュー記事が今朝(1月10日)の朝日に載っていた。話し手は法政思想史家の山室信一氏。氏は今の日本を評して「日本の満州国化」だというのだ。

満州国というのは、満州事変の後で関東軍が中心になってでっちあげた国だ。日本の傀儡国家だというのが世界史上の定説になっている。その傀儡国家に何故、今の日本が似ているのか。筆者には、とっさにはピントとくるものがなかったが、氏によれば、今の日本はアメリカの傀儡国家になっているという点で、満州国に似ているということらしい。つまり両者に共通するのは傀儡国家だという属性である。

たしかに日本がアメリカへの従属を受け入れており、安倍政権になってからは、アメリカとの同盟をますます重視するようになったということは納得できるが、だからといって日本は、いや安倍政権は、本当にアメリカの傀儡国家になろうとしているのか、或は日本をそんな国にしようとしているのか、筆者にはいまひとつ腑に落ちない。

安倍首相の目指している日本は、究極的にはアメリカからも独立して、世界中を相手に対等に渡り合えるような国(普通に戦争ができる国)になるというイメージではないだろうか。目下安倍政権がアメリカとの関係を重視しているのは、対中国との関係でそうせざるを得ないからで、安倍さんの本心は、あくまでも自主独立ということではないのか。筆者にはどうもそんな風に思える。

そこで、安倍さんの政治姿勢が問題になるわけだが、インタビューの中で氏は、安倍さんの姿勢を祖父の岸信介と比較している。岸の理念はひとことでいえば国権主義で、その国権主義を安倍さんも受け継いでいる。国権主義にとっては、戦後の民主主義は天敵ともいうべきもので、なんとかそれを廃絶しなければならない。そのためには憲法を変える必要がある。憲法を変えれば、悪しき民主主義は絶滅し、日本は自然と「美しい国」に復活できることが出来る。そう安倍さんは無邪気に考えているフシがある。そんな意味のことを氏は言っている。

だが、氏が取り上げていないことで、重要なことが一つある。それは、国民生活をめぐる、祖父の岸信介と孫の安倍晋三との考え方の相違だ。岸信介は全体主義的国権論者として、国家が国民生活を全面的に統制するかわりに、国民の生活の面倒も国家が見てやるというスタンスをとっていた。いわば国家による国民生活の囲い込みである。国民は国家に尽くす代わりに、国家によって生活基盤を全面的に見てもらえる。だから安心して戦場に赴き、国家のために命を捨てることもできる。自分が死んでも、国家が残された家族の面倒を見てくれれば、安心して死ぬことも出来よう。そういう考え方である。

ところが安倍さんにはこういう考えはない。安倍さんは、国民に対して自主自立を求め、国民が国家をあてにすることは恥ずかしいことだという考えを持っているようだ。国家は国民に対して無制限な忠誠を求めるが、国民一人一人の生活までは面倒見ない、そんなことは自分自身で考えろ、というスタンスをとっているように思える。

ともあれ、安倍政権がナショナリスティックな傾向を強め、そのことでますますアジアで孤立するようになれば、満州国というよりも、中東におけるイスラエルの立場に近づいていく可能性の方が高いのではないか。



関連サイト:日本の政治  






コメントする

アーカイブ