公的年金資金で株式投資することの是非

| コメント(0)
先般、年金積立金管理運用独立行政法人が年金資金の一部を株式などへの投資に回す意向だと伝えられた。筆者などはそれを聞いてまず、大丈夫かいな、という印象を持った次第だったが、それは、日本の役人たちが、投資などという高度に知性的なゲームに馴れていないだろうと心配したからだ。

だいたいこんなことを、当の役人が自分から言い出すはずはないと日頃思っているので、変だなと感じていたところ、仕掛け人が別にいるらしいことがわかってきた。どうも、安倍首相の発案らしいのである。ところが安倍首相は、それを、世界的な投資家として有名な、あのジョージ・ソロス氏から提案されたらしいのである。その内幕を、英誌 Economist が暴露している。Japan's pension giant Risk on Economist

記事によれば、安倍首相は一月のダヴォス会議でソロス氏と親しく会話し、その席でソロス氏から、日本の巨額の公的年金資金を株式投資に回せば、年金財政も楽になるし、世界の株式市場も活性化して、よいことづくめだ、と安倍首相を説得したらしい。その説得に、安倍首相は乗った(乗せられた?)のであろう、早速年金積立金管理運用独立行政法人に対して、年金資金を株式投資に回すようにと、発破をかけたということらしい。

ソロス氏のいうとおり、公的年金資金を世界の株式市場で投資すれば、もしかしたら年金財政が豊かさを増すかもしれない。しかし、その反対のケースもまた考えられないわけではない。なんらかの原因で株式市場がおかしくなり、貴重な年金資金が失われるかもしれない。

公的年金資金を管理する立場の厚生労働省の役人たちは、いまのところ安倍首相の命令には及び腰のようだ。公的年金資金は安全に運用されるべきであり、投資のようなリスクを負うべきではない、というのがその理屈だ。

これに対して首相サイドは、投資に回せば、リターンも大きい一方、金融市場が活性化されて、経済にもよい影響を及ぼすのだと言って、無理にでもさせようと考えているらしい。

しかし、ちょっと待ってくれよ、と言いたい気持ちになるというものだ。上述したように、日本の役人に投資のセンスを求めるのは、ないものねだりをするようなものだ。投資して儲かれば、それは役人の手柄というより、市場の偶然の賜物と考えた方が良いし、失敗して損をすれば、それは役人の浅知恵の結果だと考えてよい。実際、日本の役人に、高度な知的ゲームをさせようということ自体が間違っている、彼らにはその能力も、当事者としての責任意識も欠けている、と筆者は思っている。

それに、これには副作用も伴う。今は、公的年金資金の大部分は日本の国債購入に充てられている。日本の国債の発行量がすさまじい水準になっているにかかわらず、なかなか破綻せずに済んでいるのは、公的年金資金のおかげだと言ってもよい。その公的年金資金が国債を売り払って株式投資に金を回すようになれば、日本の国債の信用が一気に下落することにもなろう。そうなれば、日本もギリシャと同じような運命に陥りかねない。

安倍首相は、日本国の首相であるという立場を忘れてはならない。







コメントする

アーカイブ