ウクライナ危機:プーチンの野望

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ここ数日、友人たちと京都へ旅行してすっかり浮世を忘れている間に、世の中では大変な事態が持ち上がっていた。ウクライナ危機の深刻化である。ウクライナの騒乱については、このブログでも取り上げたところだが、騒乱の結果反ロシア色の強い政権が出来上がると、プーチンのロシアが早速反応し、ロシア人住民の安全を確保するという名目でクリミアへの軍事進攻を強行したのだ。これにたいして、欧米諸国が厳しく反応し、事態は大規模な衝突に向かって、一触即発の状態に陥っているというわけだ。

そこで、内外のメディアの論調をチェックしてみた。日本のメディアは、例によって外交音痴にかけては政府と五十歩百歩のありさまなので、あたりさわりのないことばかりを書いている。見出しには「危機」とか「冷戦」とかいう言葉が飛び交っているが、どこがどのように深刻な危機で、なぜ冷戦なのか、という肝心なところはぼけまくっている。つまり、これらの記事を読んでも、事態の本質は見えてこないというわけだ。

欧米のメディアは、かなり踏み込んだ分析を踏まえて、これはロシアによるウクライナの侵略であり、これを許すわけにはいかない、したがってEUとアメリカは共同してロシアに立ち向かい、侵略行為は重大なしっぺ返しを伴う、ということをプーチンに認識させなければならぬと主張するものが多い。その上で、腰砕けがちなオバマの尻を叩くというのが主流の意見のようだ。

今回読んだなかで、筆者の眼をひいたものに、ズビグニュー・ブレジンスキーがワシントン・ポストに寄せた小論がある(What is to be done? Putin's aggression in Ukraine needs a response)。

ブレジンスキーによれば、プーチンの当面の目的はクリミアの併合にある。しかし露骨にやるわけにはいかないので、ウクライナや欧米諸国の反応を見ながら少しずつ前へ進もうとしているようだ。覆面部隊に主要施設を占拠させたのはその表れで、もし反発が強烈だったら、ウヤムヤのうちに撤退すればよい、と考えたのではないか。ところが、ウクライナ側から大した反撃もないので、一歩進んで侵略の意思を明確にするにいたった。それが現在の状況だろう。次に待っているのは、もしウクライナや欧米の反発がそんなに大きくないと見れば、東部ウクライナの占領に取り掛かる。その上で最終的には、ウクライナ全体をロシアの属国に取り戻す。そんなことを考えているのではないか。

ブレジンスキーはこんな見取り図を書いたうえで、プーチンのやりかたを1938年のヒトラーのそれ(チェコ・スロバキア侵攻)になぞらえ、欧米側がこのまま見過ごしていれば、プーチンの野望は限りなく拡大するだろうと予測する。そうさせないために、欧米諸国は結束してプーチンに立ち向かい、彼の野望を粉砕しなければならぬ、というわけである。

ウクライナ情勢は、こんなにもキナ臭いものになっているわけだが、いまのところ日本政府の対応は至極のんびりしたものだ。プーチンとの間で築き上げてきた信頼関係を壊したくないとする安倍首相の意向も働いているらしい。しかし、いずれは、もっとはっきりした対応を取るようにとの圧力が、アメリカからもプーチンからもあるだろう。そのさいには、どっちつかずの八方美人的な態度は危険な結果につながりかねない。日本としての長期的な国益を考えて、かなり明確なメッセージを出していかなければならなくなるだろう。

関連サイト:ロシア情勢を読む 






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