ロシアによるクリミア侵攻と北方領土侵略

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ロシアへの帰属の是非を問うクリミアの住民投票が行われ、ロシアへの帰属が圧倒的に支持された事態を受けて、プーチンのクリミア併合の野心も、いよいよクライマックスを迎えた。いまのところ、欧米によるリアクションが軍事的な衝突に発展する見込みは薄いので、プーチンのロシアは、これを既成事実として、クリミア併合に向かって着実に進むだろうと見られる。

プーチンはいろいろと言い繕っているが、クリミアはかりにも主権国家たるウクライナの一部だ。そこに、ロシア軍を侵攻させ、その武力を圧力に使って、クリミアのロシア併合を図るというやり方は、主権国家に対する侵略行為だといってよい。このままでは、国際法もなにもあったものではない。力が物を言う、そんな野蛮な時代に逆戻りということになりかねない。

ロシアの侵略ということでは、日本もまたその犠牲者だ。ロシアは、第二次世界大戦終戦処理のどさくさにまぎれて、日本の北方領土を不法占領し、そこに暮らしていた1万7千人の日本人を、本土に追放したり、強制労働所送りにしたりした。その犠牲者のうち数千人がいまも存命だ。これらの人々は、ウクライナにおけるロシアの無法行為を見るにつけ、70年前に自分たちが被った苦しみを思い出すという。そうした人たちの声を、ジャパンタイムズの記事が伝えているのを読んで、心を痛めた次第だ。Crimea crisis stirs dispute over Russian-held islands off Hokkaido AFP-JIJI

この記事は、ウクライナ問題を巡って日本の安倍首相が陥っているジレンマについても言及している。安倍首相は、プーチンとの間にいままで5回も首脳会談を持ち、親密な関係を構築してきた。前回の会談の際には、プーチンのペットにまで御愛想を遣い、プーチンとの親密な関係を演出した。できればその関係に立って、北方領土問題に解決の見通しを得たいと考えているのだろう。しかし、ウクライナ問題に直面した現在、欧米などG7の諸国と連携してロシアへの制裁に走るのか、それとも日本独自のスタンスをとって、プーチンとの間の信頼関係の維持と北方領土交渉進展の可能性に比重を置くのか、両者の間で判断が揺れ動いているだろうと、老婆心からの推測をしているわけである。

筆者には、安倍首相のために老婆心を発揮するいわれはないが、それでも日本の国益の行方は気になる。国益の中でも最大のものは、ロシアとの関係でいえば北方領土問題の解決だろう。これは是非解決しなければならない問題だが、そのためにどんな手段でも許されるということにはならないだろう。というのも、論者の中には、対西欧との間で苦境に陥るプーチンの立場を逆手にとって、日本は日本独自の利益を追求すればよいと主張するものもいるからだ。つまり、G7による制裁に加わらず、その点でプーチンに恩を売る。そのお返しとして北方領土の解決に向けて圧力をかける、というようなシナリオを描く人もいるようなのだが、それは短期的には効果を発揮することがあるかもしれないが、長い目でみれば必ずしも日本にとって有利とはいえないのではないか。








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