300名以上の死者・安否不明者を出した韓国船の沈没事故は、乗客を放り出して自分が真っ先に逃げた船長の行動など、事故の状況があきらかになるに従い、筆者などは絶句せざるをえないほどあきれかえってしまった。日本でなら到底考えられない事態だ。いったい、この国はどうなっているんだろう、と疑問が湧き上るのも当然だろう。
乗客の安全を第一に守るべき船長が、その乗客を沈没しつつある船に取り残したまま、自分が真っ先に脱出して救助を待ったというのもひどい話だが、事故当時船を操舵していた乗員が、ほとんど経験がなく、緊急事態に対してなすすべを知らなかったというのも驚きのタネだ。
こうした事態に対して、さすがの朴大統領も怒りをあらわし、これは人災などと言う生易しいものではなく、犯罪だと言ったと伝えられている。そう言うことで、船長を始めとした乗員側の不道徳な行為が、今回の事故の本質的な原因だと言いたいかのようである。
だが、調査が進むにつれて、問題は乗員だけではなく、かれらを雇っている会社にも責任があるということがだんだんわかってきた。乗員たちが、自分らは緊急時の安全対策訓練など受けたことがないと言っているように、会社が乗客の安全に対して殆ど関心を持っていなかった実態が明るみに出てきた。
それ以上にショッキングなことは、この船長が会社の正規職員ではなく、非正規の契約社員だったということだ。非正規の船長には、会社に対する忠誠心もなく、自分の職務に対する責任感も非常に希薄だ、とは一概に言えないかもしれないが、今回の場合には、船長に最低限の職業的モラルが欠けていたといえそうである。その要因のひとつとして、非正規雇用だったということも働いているはずである。
この事故はだから、単に一個人の不道徳な行為とか一企業の安全対策の不備の問題というにとどまらず、韓国の雇用形態のあり方の問題と捉えることもできるのではないか。雇用=労働を巡って、必要な規制も行われず、経営者は好き勝手に人を雇ったりクビにしたりできる。それでは、労働者に企業への忠誠や高い職業モラルを求めることはできまい。その結果今回のような事態が生じたと考えても、あながち誤りとはいえまい。
そうだとしたら、朴大統領にも責任がある。また、日本もこれを他人事と思わずに、他山の石とすべきだと思う。安倍政権はいま、雇用の規制緩和(=労働破壊)に向けて、いろいろなことを企んでいるようだが、その結果どのような不具合が生じて来るか。安倍政権は、今回の韓国船事故から、相応の教訓を引き出すべきだと考える。
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