賣炭翁:白楽天を読む

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白楽天の「新楽府」から「其三十二 賣炭翁」(壺齋散人注)

  賣炭翁          炭を賣る翁
  伐薪燒炭南山中  薪を伐り炭を燒く南山の中
  滿面塵灰煙火色  滿面の塵灰煙火の色
  兩鬢蒼蒼十指黑  兩鬢蒼蒼として十指黑し
  賣炭得錢何所營  炭を賣り錢を得て何の營む所ぞ
  身上衣裳口中食  身上には衣裳口中に食
  可憐身上衣正單  憐れむべし身上の衣は正に單
  心憂炭賤願天寒  心に炭の賤しきを憂へ天の寒からんことを願ふ
  夜來城外一尺雪  夜來 城外 一尺の雪
  曉駕炭車輾氷轍  曉に炭車を駕して氷轍を輾く
  牛困人飢日已高  牛は困しみ人は飢ゑ日は已に高し
  市南門外泥中歇  市の南門の外泥中に歇(やす)む
炭を賣る翁、薪を切って炭を焼く終南山の山中、満面の塵芥は煙の煤だ、兩鬢は白髪交じりで十指は真っ黒だ

炭を売って得た金で何をしようというのか、身に着ける着物と食い物を買うのだ、かわいそうに着ているものは薄っぺらな一重、これでは炭の値段が安いのを憂え、寒くなるのを願う気持もわかる

夜來城外には一尺の雪、暁に炭の車を駕して氷の張った道を引いていく、牛は苦しみ人は飢えて日は既に高い、南門の外で泥の中に休んだ

  翩翩兩騎來是誰  翩翩たる兩騎の來るは是れ誰ぞ
  黄衣使者白衫兒  黄衣の使者 白衫の兒
  手把文書口稱敕  手に文書を把って口に敕と稱し
  迴車叱牛牽向北  車を迴らし牛を叱して北に牽く
  一車炭重千餘斤  一車の炭の重さ千餘斤
  宮使驅將惜不得  宮使驅り將(も)て惜しみ得ず
  半匹紅綃一丈綾  半匹の紅綃 一丈の綾
  繋向牛頭充炭直  牛頭に繋けて炭の直(あたひ)に充つ

騎馬が二騎かろやかにやってきたのは誰だ、黄衣の使者と白衫のお供、手には文書を以て口では勅令だと称する、車を巡らし牛をけしかけて北の方へ進む(翩翩:本来はチョウチョが軽やかに飛ぶさま、黄衣の使者:宦官、白衫兒:お供の少年)

一車の炭の重さは千餘斤ある、宮使がそれを持ち去るのはいかんともしがたい、半匹の紅綃と一丈の綾を、牛の首にかけて代金とした


貧しい炭売りの老人がやっとの思いで車を引いて市場に炭を売りに来たところ、宮使があらわれてその炭を二束三文で取り上げてしまった、その不条理な様子を、リアリスティックに描き出している、ただ杜甫の詩とは違って、不条理に苦しむ人民の苦しみをクローズアップすることはない








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