「美しい薬屋の娘」と呼ばれるこの絵は、前作の「農家の少年」とは対照的に、暖色を主体としている。モディリアーニはどちらかといえば、寒色よりは暖色を好んだのであり、暖色主体の絵が圧倒的に多い。だがこの絵の面白いところは、絵の具の塗り方が控えめで、色彩がややぼやけて見えることだ。意識的にそうしたのだろう。
南仏でモディリアーニは、ルノアールに会う機会があった。そのさい老いたルノアールは若いモディリアーニにいろいろとアドバイスしたそうである。嘘か本当か、その中に次のような逸話も伝えられている。ルノアールは数多くの女性を描いたが、描く前には必ずその女性のお尻を撫でて、いわば体にその女性の感触を叩き込んでから描いたというのだ。これを聞いたモディリアーニは、自分には女の尻を撫でる趣味はないと言って、憤然として立ち去ったということである。
たしかに、女性を描いたこんな絵を目の前にすると、モディリアーニが女性のお尻にこだわったという痕跡は、どこにも見出せない。ところがルノアールの絵からは、女性のお尻のふくよかさが伝わってくる。女性のお尻を撫でたルノアールの手が、そのまま絵筆に女性のお尻の感触を伝えたかのように。
(1918年、キャンバスに油彩、99×65cm、個人蔵)
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