ル・ミリオン(Le Million):ルネ・クレール

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ルネ・クレール(René Clair)のトーキー第二作「ル・ミリオン(Le Million)」(1931年)は、前作「パリの屋根の下」と同じく、身体演技と音楽との絶妙の組み合わせからなっており、バレー演劇とも、オペレッタとも、ボードビルともいえそうな、独特の映画である。身体演技の様式性をとことん追求した点では、「パリの屋根の下」よりも徹底している。音楽を取り入れながら、英米のミュージカルとは全く異なった雰囲気を醸し出しているのは、クレールがヨーロッパ大陸の祝祭文化を継承していることから来ているのだろう。

筋書きは「パリの屋根の下」よりも単純で、馬鹿馬鹿しさも徹底している。日頃債権者に追われている貧乏画家ルネ・ルフェーヴル(René Lefèvre)が、宝くじを当てたことがわかるが、その当たり券をしまったジャケットが、ふとしたことから第三者の手に渡ってしまった。そこで、貧乏画家やその友達そして債権者たちが、当たり券の行方を求めてドタバタの追及劇を広げるというものだ。その合間に、画家とその恋人アナベラ(Annabella)の愛のささやきがかわされるのは、いかにもフランス的といってよい。つまり、洒落ているのだ。

この映画に出てくるパリの街も、「パリの屋根の下」と同じく人工のセットだ。おそらく同じセットを使っているのだろう。こういうセットは、作るのには金がかかるが、いったん作ると、何度でも使うことができる。冒頭に、屋根伝いに歩いていた男が、天窓を外して、そこから下の部屋を覗き込むシーンが出てくるが、これはセットだからこそできる演出であろう。とこあれ、昔のパリにはこんなことがあったのかと、見ていて楽しい気分にさせられる。

身体演技と音の組み合わせについては、前作以上に工夫のあとが伺われる。登場人物たちが、軽快な音楽に合わせて動き回るところが、マリオネットの人形を見るようだし、また、オペラの舞台の上で、主人公の上着を奪い合うシーンでは、なぜか、オペラの音楽ではなく、ラグビーの試合の騒ぎが重ねられる。これは、「パリの屋根の下」での格闘シーンで、通り過ぎる列車の音が重ねられていたことを思い出させるが、それ以上に、荒唐無稽さを感じさせる。

一つのものを大勢の人間たちが奪いあうという点で、舞台上の騒ぎとラグビーの試合の騒ぎには共通点があると強弁できないでもないが、なぜオペラの舞台にラグビーなのか、という疑問が残らないではない。しかし、それでも大した不自然さを感じさせないのは、この映画が、レアリズムではなく様式性を追求したものであることを、観客が了解しているためだろう。








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