赤ん坊を抱くジプシー女:モディリアーニの肖像画

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モディリアーニには、ジプシー女を描いた絵が二点ある。どちらも、同じ服装で、しかも赤ん坊を抱いているところから、ほぼ同じ時点でデッサンしたものと思われる。そのうちの一点がこの絵である。ほかの一点は、抱いている赤ん坊の頭の一部が覗いているだけで、ほとんど女の上半身が描かれているだけである。

少数民族で、とかく迫害の対象になるという点で、ジプシーとユダヤ人は似た境遇にあった。そんなジプシーに、ユダヤ人であるモディリアーニは共感したのかもしれない。赤ん坊を抱いた女の表情には、どことなく気品のようなものが感じられるからである。そのような感覚は、対象への深い共感がなければ、表現されないであろう。

ピカソもまた、ジプシーを描いたが、ピカソのジプシーには気品のある表情は見られない。ピカソの視線は、あくまでも対象を客観的に見ているのであって、モディリアーニにおけるような共感が込められてはいなかったからだと考えられる。この絵に限らず、モディリアーニの絵に暖かさが感じられるのは、彼の対象を見る視線に共感がこもっているからではないか。

(1919年、キャンバスに油彩、115.9×73.0cm、ワシントン、ナショナル・ギャラリー)







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