白楽天の七言律詩「重ねて題す」(壺齋散人注)
日高睡足猶慵起 日高く睡り足りて猶起くるに慵し、
小閣重衾不怕寒 小閣衾を重ねて寒を怕れず。
遺愛寺鐘欹枕聽 遺愛寺の鐘は枕を欹て聽き、
香爐峰雪撥簾看 香爐峰の雪は簾を撥げて看る。
匡廬便是逃名地 匡廬は便ち是れ名を逃るるの地、
司馬仍為送老官 司馬は仍ほ老を送るの官為たり。
心泰身寧是歸處 心泰く身寧きは是れ歸する處、
故鄉何獨在長安 故鄉何ぞ獨り長安に在るのみならんや
陽が高く上り眠りは十分だがなお起きるのが物憂い、小さな部屋に褥を重ねて寒さをものともしない、遺愛寺の鐘が鳴ると枕をそばだてて聞き、香爐峰の雪はすだれを掲げて見る(小閣:小さな部屋)
匡廬は世間から逃れ住むに適した地で、司馬は老人には相応しい官職だ、心が安らかで身が健康ならばそれ以上言うことはない、故郷は長安だけとは限らないではないか(匡廬:廬山のこと、逃名:世間から逃れる、送老:老後を送る)
香爐峰の麓に草堂を設けた際に歌った詩の続編で、四首からなる。これはその第三首。日本でも、平安時代から好んで暗誦されてきた。
白楽天のこの詩は白氏文集とともに枕草子にも引用されていますね。詩人は中央官庁では庶民出身では貴族強い権力闘争では生きられないと見切りをつけ、地方役人として、出世に見切りをつけ悠々とした後半生を過ごしましたね。懐かしいので16巻ある漢詩紀行の詩人の巻を久しぶりに鑑賞しました。中国の美しい風景、歴史も語られているので気持ちが安らぎました。