白楽天は、二年間の杭州生活の後、半年の洛陽勤務をはさんで、宝暦元年(825、54歳)の春に蘇州刺史に転じた。蘇州は江南の大都市であり、白楽天はめずらしく多忙を極めたらしい。元真への手紙のなかで「清旦に方に案を堆くす、黄昏に始めて公より退く」と書いているほどである。
しかし、職務の傍ら名所旧跡を訪ねては気晴らしを重ねることもあった。風光の明媚なことは杭州に劣らない。そんな蘇州の風景を歌ったものが、「呉中好風景二首」である。
白楽天の五言古詩「呉中の好風景二首」其一(壺齋散人注)
呉中好風景 呉中 風景好し
八月如三月 八月も三月の如し
水荇葉仍香 水荇 葉 仍(な)ほ香しく
木蓮花未歇 木蓮 花 未だ歇(つ)きず
海天微雨散 海天 微雨散じ
江郭繊埃滅 江郭 繊埃滅す
暑退衣服乾 暑さ退きて衣服乾き
潮生船舫活 潮生じて船舫活す
両衙漸多暇 両衙 漸く暇(いとま)多く
亭午初無熱 亭午 初めて熱きこと無し
騎吏語使君 騎吏 使君に語る
正是遊時節 正に是れ遊時の節なりと
呉中は風景がよい、八月でも三月のように美しい、呉中の葉はなおみずみずしく、木蓮の花はまだ尽きない(呉中:蘇州のこと、水荇:水面のあさざ)
海上の空が晴れて微雨がやむと、川のほとりの町にはチリひとつなくなる、暑さが退いて衣服が乾き、潮が満ちて船の往来が活発になる(活:活発になる)
役所の仕事もだんだん暇になり、正午でも暑さがやわらいできた、そこで騎吏が上司に向かって言う、いまがちょうど遊ぶにはよい時期ですよ、と(両衙:役所での朝夕二回の決済の時間、亭午:正午、騎吏:馬担当の小役人、使君:上司、ここでは刺史である白楽天自身を指す)
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