陸奥小紀行二:不老不死温泉

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九月二十日(土)晴。六時起床。一浴して後朝餉を喫し九時に出発する。バスは大潟の田圃地帯を横切り十時半ごろ五能線の能代駅に到着した。ここから電車に乗って日本海の景色を眺めながら十二湖まで行こうというわけである。筆者は十年余り前に白神山地を訪ねたことがあるが、その折には秋田から直通の特別列車に乗って十二湖まで行ったものだった。今回はローカル線の車両でのんびり行くわけである。

能代川を超えると田園地帯に入る。折から丁度収穫の最中であった。今年は豊作になったそうで、そのこと自体は喜ぶべきだが、農家にとって喜べないのは米の価格が下落したことだという。売り渡し価格は一俵あたり九千円前後。一丹歩あたり十二俵の収穫と仮定しても、三町歩の田圃を持つ農家でさえ、三百二十万円程度の収入にしかならない。これでは、とても成り立ってはいかないだろう。日本の農業がいかに矛盾を抱えているか、この一事を以てしても明らかと思われる。

東八森の駅を過ぎ暫くして海岸線が現れた。列車はこの先十二湖駅まで海岸線に沿って走る。この八森には港もあってハタハタ漁の拠点になっている。秋田音頭に「はつもりはたはた」とあるのは、そのことをさしていうのであろう。また、夏場は海水浴場としても栄えているということで、あきた白神駅付近には海水浴に適した砂浜が広がっているという。

十二時過、列車は十二湖駅に到着した。ここから山中へ入っていくと暫くして、名称のとおり十二の湖が点在するのが眺められるのだが、今回はまっすぐ不老不死温泉に向かった。不老不死温泉とは大げさな名前だが、その名を裏切らず薬効明らかな温泉であるらしい。

まず温泉施設内の大広間に通されて昼飯を振る舞われた。まぐろの刺身とマグロの石焼である。まぐろはもっぱら生で食うものと思っていたが、焼き石でさっとあぶって食うのもなかなかおつな味がするものだ。

食後、不老不死という温泉に浸かる。この湯が何故不老不死といわれるようになったか、その由来はつまびらかではないが、美肌効果が認められると言うので、若々しさを保つことから不老不死が連想されたのかもしれない。そんなこともあって、特に女性の間で人気が高いそうである。

温泉は海岸の汀間近に湧き出ている。もともとは一つの大きな湯だまりを男女混浴で用いていたが、今では真ん中を柵で区切って二分し、海に向かって右側を女性専用、左側を男女混浴としている。もっとも男女混浴の湯に浸かる女性は、よほどの物好き以外にはいないそうだ。とはいっても、湯だまりは青天井だし、柵は申し訳程度なので、湯だまりから砂浜に出れば、柵などないも同然だ。

海岸の汀間近に湧き出ているせいか、湯は色が赤茶色に濁り、舐めると塩辛い。じっと浸かっていると、不老不死のエキスが体内にしみこんでくるように感じられるのは、名前のトリックに引っかかっているためだろう。





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