昭和天皇実録をどう読むか:保坂正康氏の読み方

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昭和天皇実録が公表された。全60巻1万2千頁に及ぶ膨大な量なので、読みこなすのは大変なことだ。そこで、昭和天皇について民間の立場から研究してきて、著書も出しているノンフィクション作家の保坂正康氏が、これを読む際の視点のようなものについて、サンデー毎日(10月2日号)に乗せているので(「昭和」という時代)、とりあえずはそれを頼りに、この実録の内容について、多少のイメージを結ぼうとした次第だ。

氏は、この実録に目を通して見て、すぐにいくつかのことに気付いたという。箇条書きにすれば、以下の5点だ。

1、「民」の側の刊行には見られない国家所蔵の記録文書を使っている。
2、史実の確定について政治的な判断を行っている。
3、昭和天皇像を明確にしておき、それにもとづいて記述を進めている。
4、引用資料の列記の方法が著しく公正を欠いている。
5、なにげない記述の中に重要な事実が隠されている。

これを簡単に要約すると、これまで蓄積されてきた「民」の側の昭和天皇についての研究結果をあまり考慮することなく、「官」の側で一定の昭和天皇像を作ったうえで、それに基づいて首尾一貫した記述がなされている。その首尾一貫性のうちにはきわめて政治的な動機が含まれている、ということになりそうだ。

昭和天皇という存在は、日本の歴史上きわめて政治的な色彩に彩られていた存在であったので、その生涯を描き出す上においては、いきおい政治的な判断が付きまとうのは、ある意味当然のことといわねばならない。それを、宮内庁を中心とする実録編成の担当部局が受け止めたうえで、日本の優れた政治的指導者であったとともに、人間としても慈愛に満ちたスケールの大きなお人であったというような、積極的な昭和天皇像を作り上げたうえで、首尾一貫した歴史記述をしたいと思うのは、「官」の立場としては理解できるところである。

氏もそのことを十分に理解しながら、それでもなお批判的な眼を以てこれを読まなければ、歴史の真実から逸脱すると、読者に向かって警告しているようである。

昭和史 





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