白楽天の詞「江南を憶ふ」(壺齋散人注)
其一
江南好 江南好し
風景舊曾暗 風景 舊(も)と曾て暗(そら)んず
日出江花紅勝火 日出でて 江花 紅火に勝り
春來江水緑如藍 春來って 江水 緑藍の如し
能不憶江南 能(よ)く江南を憶はざらんや
江南はすばらしい、その風景はずっと心に焼き付いている、日が出ると川辺の花は日よりも赤く、春が来ると水面は藍のように青くなる、どうして江南を思わずにいられようか
其二
江南憶 江南を憶ふ
最憶是杭州 最も憶ふは是れ杭州
山寺月中尋桂子 山寺 月中 桂子を尋ね
郡亭枕上看潮頭 郡亭 枕上 潮頭を看る
何日更重遊 何れの日にか更に重ねて遊ばん
江南を思う、もっとも思われるのは杭州のこと、山寺の月の中の桂を訪ね、郡亭の枕上から海嘯を見る、またそこに遊ぶことのできるのはいつの日のことか
其三
江南憶 江南を憶ふ
其次憶呉宮 其の次に憶ふは呉宮
呉酒一杯春竹葉 呉酒一杯の春竹葉
呉娃雙舞醉芙蓉 呉娃雙舞す醉芙蓉
早晩復相逢 早晩復た相ひ逢はん
江南を思う、次に思われるのは呉宮のこと、呉酒一杯の春竹葉、芸妓が踊る醉芙蓉、次にまた会えるのはいつの日のことか(呉宮:蘇州にあった呉の宮殿、春竹葉:呉酒の名、醉芙蓉:呉の踊りの名)
太和九年(835、64歳)、白楽天は「白詩文集」六十巻を編纂し、魯山の東寺に奉納した。その際に、昔日の江南時代のことを思い出す詞を作り、「憶江南」と題した。
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