静物(Stilleben):クレーの天使

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クレーの生涯最後の作品がこの不思議な絵である。クレーはこの絵に題をつけなかったが、クレー研究者の間では「静物(Stilleben)」と呼ばれている。黄色いテーブルの上のポットやら、逆さまになったテーブルに乗った壺など、つまりふつう静物画のモチーフとなるような図柄が描かれているからだ。

この絵の中にも、天使の姿がある。左下のカードに描かれている絵がそれだ。これは、ヤコブと一体化した天使(あるいは天使と一体化したヤコブ)だと解釈されている。旧約聖書の創世記によれば、ヤコブは天使と格闘して勝ち、イスラエル(神の勝者)の名を与えられ、今日のイスラエル人の祖先となった。ユダヤ人ではないクレーが、なぜイスラエルをテーマに取り上げたか、それはわからない。

なお、この絵には、死のイメージが氾濫しているように見える。テーブルの上に散乱した残骸がそうだし、左上のさそりのような形の花もそうだし、なによりも闇に浮かぶ黄色い月が不吉な感じを与える。この死が、クレー自身の死をイメージしているのか、ヨーロッパ文明の死をイメージしているのか、それは見るものの視点如何にかかっている。

(1940年、キャンバスに油彩、100.0×80.5cm、ベルン個人蔵)







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