日銀は打ち出の小槌?

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日銀がこれまでにも増して大胆な量的緩和策を打ち出したと言うので、市場関係者の間でちょっとしたフィーバーになっている。折からアメリカのFRBが、量的緩和政策の打ちきりを発表したところだ。このタイミングでなぜ、日銀は追加の量的緩和に踏み切ったのか。黒田日銀総裁は、依然としてデフレ状況から抜け出せない日本経済を活性化させ、成長軌道に乗せることが目的だと、大見栄を切っているが、この言葉を額面通りに受け取る者は、余程の経済音痴というほかあるまい。

黒田日銀の本当の狙いは為替操作なのだろう。この際、思い切って円安に誘導し、それでもって株価の上昇につなげたい。いまや日本経済によい材料のない中で、安倍政権にとっては、株価の上昇位しか、市場の喝さいを得られるものがない。実際、緩和策を発表した直後に、日経平均株価はドラスティックな上昇を示す一方、円相場は下落して、当面はドルあたり115円といった相場が定着するのではないかといわれている。

いまの日本経済の状況を前提にすれば、円安と株高がしっかりと連動することは誰にでもわかることなので、為替操作で円安に誘導すれば、株価が上がることは確実に予測できる。黒田日銀総裁は、その予測を頭に入れて、為替操作をしたに違いない。

しかし、「私どものしていることは為替操作です」とは口が裂けても言えない。そんなことを中央銀行の総裁が口にすれば、世界中からバッシングを受けること間違いない。だから黒田日銀総裁は、あいもかわらず、デフレからの脱却にこじつけて、自分の政策を合理化しようとするのだろう。デフレから脱却するためだと言えば、多少の金融緩和も多めに見て貰えるだろうからだ。

従来の経済学の主流的な見方によれば、金融が緩和すれば景気は上昇するはずだった。金融が緩和されて市場に金が行き渡れば、その金が設備投資を始めとした実体経済のために使われ、それによって景気が上向き、更にそれに賃金の上昇が加わって、経済全体が好循環するようになる。そのように考えられてきた。ところが、日本ではなかなかそうならない。それには構造的な要因があるからだと考えた方がよい。

金融が緩和されて市場に金が行き渡っても、その金を使って実体経済を回そうとする意欲が欠けていれば、誰も喜んでその金を使おうとはしない。その意欲とは、物を作れば売れるという確信に支えられている。作っても売れるという確信がなければ、誰も金を使って設備投資をしたり、生産を拡大しようなどとは考えないものだ。

いまの日本の経済には、物を作っても売れないというあきらめのような感情が蔓延している。だから、日銀がいくら金融を緩和して、市場に金を溢れさせても、それが生産やサービスの拡大に結びつくことはない。その理由には二つある。ひとつは、人々にすぐにでも買いたいと言う気をおこさせるような強力な需要がないということ、もうひとつは、たしかに物は買いたいのだが、買うための金が無いという状況だ。前者は、流動性選好にかかわる事態であり、後者は、日本が格差社会になって、需要の旺盛な中間層が痩せ細ってきていることと関連している(この二つの事態をあわせて筆者は、「経済成長ののびしろが欠けている」と言いたい)。

こうした構造的な要因を解決していかない限り、いくら日銀が異次元の金融緩和をしたところで、経済が活性化することは全くあり得ない。あり得ることと言えば、円の名目上の価値が下がり、それと並行して、国際的な評価が下がることだ。

その結果、名目上の物価は上昇するだろう。黒田日銀総裁の如くはそれを以てインフレが実現したと錯覚するかもしれない。しかし、そんなインフレは、経済の活性化をもたらすものではない。経済が沈滞したままに、物価だけが上昇するだけのことだ。これは今までの経済学用語でスタグフレーションと呼ばれてきたものだ。黒田日銀の金融緩和が、なにか目に言えるような結果を生むとしたら、それはスタグフレーションの到来くらいだろう。

全世界どこの国でも、中央銀行の使命と言うのは、自国の通貨の価値を守ることだと言われてきた。ところが日本の中央銀行であるいまの日銀は、自国の通貨である円の価値を毀損することで物価の上昇を実現したいと思っている。思っているだけではなく、そうした政策を臆面もなく実行している。そのような政策を筆者は、デヴァリュエーションと呼んでいる。デヴァリュエーションとは、通貨の価値を意図的に毀損しようとする政策のことである。

今の日銀は、自国通貨のデヴァリュエーションに血眼を挙げているような、頭の狂った人々の集まりだとしかいいようがない。

そんな頭の狂った人々でも、安倍政権にとっては大いに有益な存在なのだろうと思う。なにしろいまの日銀は、それこそ打ち出の小槌のように、政府が必要としている金を際限もなく用立ててくれるのだから。





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