早すぎた葬儀

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死亡診断を下されて葬儀場に送られた91歳の老女が、葬儀場の冷蔵庫の中で生き返るという事態が起こったそうだ。このことを巡って、舞台となったポーランドはもとより、世界中が大フィーバーしている。無理もない。一旦医師によって死亡が宣告された人間が生き返ったわけだから。

ヨーロッパには、死の床から蘇ったという話が無数に伝えられていて、人々の死への割切れない思いを掻き立てて来た歴史がある。エドガー・アラン・ポーの短編小説「早すぎた埋葬」は、そうした死をめぐる漠然とした不安があるような土壌でこそ生れ得たものだろう。日本のように死後速やかに火葬してしまうような文化にあっては、考えられないことだ。

それにしても不可解なのは、医学の発達した今日でも、人の死がゾンザイに判断されたことだ。生き返ったということは、この老女はもともと死んでいなかったということだ。普通、人が死ねば、24時間以内に死を特徴づける現象、たとえば尿管や肛門が開いて糞尿が流出すること、全身の筋肉が硬直するなどの現象が現れるはずだ。死んでしまった人間にはこうした現象が現れないはずはないから、注意深く見ていれば、死んだとされる人間が本当に死んだのかどうかは、医師でなくとも確認できるはずだ。

ところが今回のケースでは、医師も死の兆候を甘く判断し、周りの人々も死者の死を十分に確認することを怠った、としか考えようがない。でなければ、このような馬鹿げたことが起こるはずはない。それが起こったというのは、いったいどういうことなのか。筆者ならずとも、誰でも頭を抱えるところだろう。





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