むかし、わかきをとこ、異しうはあらぬ女を思ひけり。さかしらする親ありて、思ひもぞつくとて、この女をほかへおひやらむとす。さこそいへ、いまだおひやらず。人の子なれば、まだこゝろいきおひなかりければ、とゞむるいきおひなし。女も卑しければ、すまふ力なし。さるあひだに、おもひはいやまさりにまさる。俄に親、この女をおひうつ。をとこ、血の涙をながせども、とゞむるよしなし。率て出でゝ去ぬ。をとこ、泣く泣くよめる。
出でゝ去なば誰か別れの難からむありしにまさる今日はかなしも
とよみて絶えいりにけり。親あはてにけり。猶思ひてこそいひしか、いとかくしもあらじと思ふに、真実に絶えいりにければ、まどひて願たてけり。今日の入相ばかりに絶えいりて、又の日の戌の時ばかりになむ、からうじていき出でたりける。昔の若人は、さるすける物思ひをなむしける。今の翁、まさにしなむや
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