トマ・ピケティの格差拡大論

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専門分野の学者としては異例の人気を誇るのがフランスの経済学者トマ・ピケティ。その主張の概要は、資本主義というものは基本的な傾向として、格差を拡大させることを本質としている、と主張していることだ。先年アメリカで起きた「ウォール・ストリート占拠運動」は、彼の説に鼓舞された部分が大きかったといわれる。そのピケティの講義の様子を、昨夜(一月九日)のNHKが伝えていた。それを見ると、ピケティの主張のあらましがよく伝わってくる。

ピケティは、マルクスのようにリクツで経済を説明するのではなく、ファクツで説明するタイプのようだ。彼は過去200年の資本主義経済の動きを、数字として捉え、その数字から何が見えて来るのかを議論する。彼が重視するのは資本収益率と経済成長率である。資本収益率とは、投資の結果得られる見返りのことだ。これが経済成長率より上回る程、格差は拡大するというわけだ。

ピケティは、過去200年にわたって、各国の資本収益率と経済成長率の動きを調べた。その結果、この期間における資本収益率の平均値は約4パーセント、一方経済成長率は1.8パーセントであった。これは、国民が全体として享受する成長の果実に比較して、資本家が投資して得られる果実の方が2倍以上も大きいということを意味する。要するに、金持は普通の人間よりも大きな富を得るということだ。ということは、金持はますます金持となり、普通の人間との間の格差は拡大する一方だということを意味する。

資本収益率が経済成長率を上回ることのメカニズムについては、この講義では触れていなかった。とりあえずはファクツが大事だ、ということなのだろう。

ところで、20世紀の一時期、格差が縮小した時期があった。第二次大戦の終了から80年代の直前までの時期だ。この時期に格差が縮小した理由をピケティは、二度の戦争による富の破壊に求めている。富が大規模に破壊されたことで、格差が一度リセットされたというのだ。ところが、80年代以降、再び格差が拡大する傾向が強まった。それは直接には、レーガンやサッチャーに代表される新自由主義的な政策の効果であったが、要するに、それまで格差を縮小するためにとられてきたブレーキが解除され、資本主義がその本来の動きを見せるようになったことの結果だとピケティは言うのだ。

21世紀の資本主義は、格差是正のためのブレーキが働かなければ、19世紀並みの格差社会に舞い戻りするだろうというのが、この講義でのピケティの結論だった。







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