鎌倉時代の絵巻物

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平安時代の末期に登場した絵巻物は、鎌倉時代に入るとますます盛んに作られるようになった。それらをおおまかに分類すると、四つの種類に分けることができる。物語絵巻、説話物(軍紀を含む)絵巻、寺社の縁起絵巻、高僧を中心にした伝記絵巻である。

物語絵巻は、平安時代末期に成立した源氏物語絵巻の強い影響を感じさせるものが多い。寝覚物語絵巻、紫式部日記絵巻、伊勢物語絵巻などがそれである。一方、源氏物語の影響から出発しながら、独自の画法を感じさせるものもある。狭衣物語絵巻や駒競行幸絵巻がそれで、上から見下ろすような構図に源氏物語の強い影響を残しながら、人物の描き方には新しい要素が見られる。

説話物は、吉備大臣入唐絵巻や長谷雄卿草紙のように、奇譚の類を面白おかしく描いたものと、平治物語や蒙古襲来絵巻のような軍記物とがある。うち平治物語絵巻には、平安時代の末期に成立した伴大納言絵詞の強い影響が伺える。蒙古襲来絵巻は、写実的な画風である。

鎌倉時代に最も多く作られた絵巻物は寺社の縁起絵巻である。代表的なものとしては、粉河寺縁起絵巻、北野天神縁起絵巻、当麻曼荼羅縁起絵巻、春日権現記絵巻、石山寺縁起絵巻である。いずれも寺社の創建や霊験に関する記録を中心に描いている。比較的新しい分野ということもあって、画風もそれぞれにユニークなものが多い。

寺社の縁起絵巻とならんで、高僧の伝記絵巻も多く作られた。代表的なものは一遍聖絵、法然上人行状絵図である。一遍聖絵は日本の風景画の伝統に新たな要素を加え、法然上人行状絵図は、宗教的な雰囲気を称えたものとなっている。

以上、さまざまな絵巻の類は、日本の絵画の歴史の上で、重要な意義を持ったといえる。絵巻の形にコンパクトに表現されることで、多くの人々の鑑賞の対象となり、それを通じて絵画が芸術として社会に普及していくきっかけを作ったからだ。だが、絵巻はいまだ独立した絵画とは言えず、あくまでも詞書を盛り立てるための添え物であったということも忘れてはならないだろう。

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