狭衣物語絵巻:鎌倉時代の絵巻物

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(狭衣物語絵巻、天稚御子狭衣を天上に誘う)

狭衣物語絵巻の最古のものは、現在東京国立博物館に五幅の断簡として伝わっている。そのもとの形は、狭衣物語四巻を、八巻の絵巻物に仕立てたものと考えられている。成立したのは十三世紀初め頃のことで、その後幾多の変遷を経て、徳川時代には徳川氏の所有となり、江戸城内に保存されていた。しかし、戊辰戦争の時に、上野の寛永寺に疎開した際、幕府軍の攻撃で大部分が焼失した。そのうちの一巻が完全な消失を免れて残ったが、巻物の両端が焦げるなどの、痛ましい姿と成り果ててしまった。この巻物の内容が解体され、断簡の形で仕立て直されたものが、現在東京国立博物館にあるものである。

上の絵は、天稚御子が狭衣を天上に誘う場面。五月雨の頃、内裏で管弦の催しがあった時に、狭衣は笛を吹いていたが、そこに天稚御子が降臨して、狭衣を天上に誘う。狭衣は、まだ地上に未練があったので、言葉を尽くして天稚御子の誘いを断ると、天稚御子はあきらめて天上に戻っていく。

ここに描かれているのは、清涼殿孫庇の間である。高床の上に小紋高麗縁の畳を敷いて、その上に直衣姿の殿上人が並んでいる。列の右端で笛を吹いているのが狭衣で、その前に天稚御子が降臨し、紫雲をたなびかせながら、狭衣を天上に誘っているところである。

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(狭衣物語、狭衣が誘拐される飛鳥井姫君を助ける)

この絵は、狭衣が誘拐される飛鳥井姫君を助ける場面。狭衣の一行が二条大宮あたりにさしかかったところ、不審な牛車を見かけた。簾を開けてみると、中から坊主が飛び出てきて逃げ去った。その後に一人の姫君が残っている。事情を聞くと、仁和寺の坊主が師中納言の娘飛鳥井姫君に懸想して誘拐したということが分かった。

右手の牛車が姫君の乗っている女車、左手の牛車が狭衣の乗っている車である。下部のほうが焼けてしまって欠損している。

関連サイト:日本の美術 





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