三十六歌仙絵巻:鎌倉時代の絵巻物

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(佐竹本三十六歌仙絵巻から小大君)

三十六歌仙は、藤原公任(966-1041)が選んだ男女三十六人の歌人たちのことをいう。その肖像画は、平安時代の頃から盛んに描かれるようになったが、現存するもので最も古いは鎌倉時代のものである。佐竹本と上畳本とが伝わっている。

佐竹本は佐竹家に伝わってきたものだが、もともとは京都の下加茂神社に伝わったもの。上下二巻からなり、それぞれ十八人ずつの歌仙を描いている。また、歌仙の像の脇には、それぞれの人物の履歴と代表歌が添えられている。大正年間に、巻物が切断されて、一枚ずつの断簡に分かたれた。高価すぎて、一人の手で購入できるものがなかったために、売れやすくするための工夫だったとされる。

作者は藤原信実(1176 - 1265)と伝えられるが確証はない。成立時期は十三世紀前半と考えられている。

この絵巻のなかの女性歌人の姿はいずれも美しいが、なかでも小大君はひときわ美しく描かれている。唐衣と裳をつけた正装の女房装束姿で、唐衣の重なり具合や赤い袴との色彩対比が効果的である。

なお、右側に書かれて文章は、次のように読める。

三条院東宮時女房蔵人左近是也或書曰醍醐天皇孫三品式部卿重明親王女母貞信公女一條院御時人
  いはゝしのよるのちきりも絶ぬへし あくるわひしきかつらきの神

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(上畳本三十六歌仙絵巻から紀貫之)

上畳本は、各絵の肖像がいずれも畳の上に描かれていることからこう言われるようになった。体裁は佐竹本と殆ど同じである。こちらは早くから断簡化が進み、海外に流出したものもある。

制作時期は佐竹本とほぼ同じだが、佐竹本に比べると、筆致や彩色が入念であり、より伝統的な技法に立っていると言える。

この紀貫之像は、きびきびとした線で描かれ、貫之の謹厳な人柄が伝わってくるようである。

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