オルガス伯の埋葬:エル・グレコの幻想

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エル・グレコは、スペインに渡ってきたそもそもの目的である宮廷画家になることには失敗したが、画家として失敗したわけではなかった。フェリペ二世の評価はもらえなかったが、トレドの大商人や大寺院の贔屓を得て、注文が山ほど舞い込んできたのである。大商人には自分や家族の肖像画を依頼された。大寺院には聖堂を飾る絵を依頼されたのである。

そんな注文に応えた絵の中でも、エル・グレコ自身が、これは自分にとって最高の出来だと言ったのが、「オルガス伯の埋葬」と題するこの絵である。これは、トレドのサント・ドメ教会の注文に基づいて描かれたものである。祭壇を飾るものなので、縦460cm、横36cmといった巨大な画面である。

絵のテーマとなったオルガス伯と言うのは、名をドン・ゴンサロ・ルイスといって、14世紀の始めに、サント・ドメ教会の礎を築いた聖人ということになっていた。その聖人を記念するために、当の教会がエル・グレコに敬虔な絵を描くように依頼したというわけなのである。

しかし、絵をよく見ればじきにわかるように、この絵からは宗教的な厳粛さが伝わってこない。むしろ、人々を白けさせるようなところがある。たとえば、埋葬に参列している人々の中で、天国の方を向いているのは、埋葬の司会者たる僧侶一人だけである。本来なら、埋葬に参加した人々はすべて、オルガス伯の魂が天国に迎えられるところを見送るべきなのだ。そのオルガス伯が昇天してイエス・キリストによって迎えられるところは、画面の上半分に詳細に描かれている。

なお、画面左下に描かれている少年は、エル・グレコの息子ホルヘ・マヌエルだとされている。









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