北野天神縁起絵巻:鎌倉時代の絵巻物

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(北野天神縁起絵巻、第四巻、縦52.2cm、北野天満宮蔵、13世紀前半)

北野天神縁起絵巻は、菅原道真の無念の一生と、死後天満大自在天と化して霊威を振るったこと、人々が道真の霊を鎮めるために天神社を作った経緯などを絵巻物にしたもので、いくつかの本が伝わっているが、最も古くまた権威のあるものは北野天満宮に秘法として伝わる承久本と呼ばれるものである。詞書に承久元年(1219)とあるところからそう呼ばれるようになったのだが、本文の最初の形態は建久五年(1194)以前に遡ると考えられている。

八巻からなる。そのうちの六巻までは道真の伝記と死後怨霊となった経緯が描かれ、残りの二巻では日蔵という僧侶の地獄めぐりと六道の有様が描かれている。本来は、それに続いて北野天満宮の創建や天神の霊験について描かれる筈であったが、なんらかの事情で中断されたらしい。

巻物は、縦長の紙を横につなぎ合わせて作ってある。現存する絵巻物としては最も大きなものである。それ故、画風も大画面を生かして、強烈な表現をする一方、繊細な描き方も併存するなど、一人の画家が描いたとすれば、かなり多彩な才能の持ち主だったことを伺わせる。

上の絵は、筑紫の配所での道真の様子。道真が筑紫に流されてからちょうど一年経った九月十日の宵に、昨年の同じ日に天皇から賜った衣を取りだして、都を忍びながら嘆いているところを描いている。屋根に苔むしたあばら屋、茫々と草の生い茂った庭、そして無念そうな表情の従者たちを前に、衣に見とれる道真の表情が、情緒豊かに描かれており、全巻中もっとも感動的な場面となっている。

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(北野天神縁起絵巻、第五巻)

これは、第五巻から。道真が雷神と化して清涼殿の時平を襲う場面。時平は道真の政敵であり、姦計を用いて道真を失脚させた人物である。

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(北野天神縁起絵巻、第六巻)

これは、第六巻から。時平を呪い殺した道真の怨霊が、それでも満足することなく、火雷火気毒王となってたてつづけに清涼殿に災いをもたらす場面である。道真の激しい怒りと、逃げ惑う公家たちのコントラストが鮮やかである。

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(北野天神縁起絵巻、第七巻)

これは、第七巻から。この巻は僧侶日像の地獄めぐりを描いている。これはその一枚。真っ赤な炎の中で、獄卒たちが地獄へ落ちてきた者たちを責めさいなんでいるところ。地獄草紙とはまた違った雰囲気が感じられる。

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