三代目坂田半五郎の藤川水右衛門:写楽

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(三代目坂田半五郎の藤川水右衛門)

石井兄弟の敵役藤川水右衛門に扮した三代目坂田半五郎は、悪役の大ベテランであった。二代目の坂田半五郎が、亀山の仇討の水右衛門役をあたり芸としていたことが機縁で、その丁度13回忌にあたる寛政六年の五月に、三代目が全く同じ役で追善供養したのがこの舞台であると言われる。

この絵は、石井源蔵の挑戦を、水右衛門が返り討ちにする場面を描いている。挑発的に腕まくりをし、眼を見開いて敵を睨んだその表情には、悪人らしいふてぶてしさと、余裕が感じられる。水右衛門は、源蔵とその妻千束を、安倍川で殺してしまうのである。

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(二代目坂東三津五郎の石井源蔵)

一方、対する石井源蔵には、悲壮感がただよっている。刀を斜めに構え、眼をむき出して敵に迫っているように見えるが、石井源蔵の表情に余裕が見られるのに対して、こちらはせっぱつまった焦りのようなものが感じられる。

くっきりとした太くて黒いまゆ毛や、不釣り合いに大きい華は、二代目坂東三津五郎の容貌を特徴づけるものだとされるが、誇張が過ぎて、聊か戯画的になっている。

水右衛門の着物を黒く、源蔵の衣を白く描いているのは、善悪の対照を際立たせるための工夫のひとつだろう。なお、この衣の白い部分には、空摺(絵の具を塗らず、凹凸だけで摺る手法)が施されている。







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