伊勢物語絵巻八十段(藤の花)

| コメント(0)
ise-080.jpg

むかし、おとろへたる家に、藤の花植ゑたる人ありけり。三月のつごもりに、その日、雨そほふるに、人のもとへ折りて奉らすとてよめる。
  ぬれつつぞしひて折りつる年のうちに春はいく日もあらじと思へば

(文の現代語訳)
昔、家運が衰えた家に、藤の花を植えている人があった。(旧暦)三月の末、雨がしとしとと降る日に、人のもとへ献上させるとて、次のような歌を読んで添えた。
  濡れながらも強いて(藤の花のついた枝を)折りました、今年の春はもう幾日もないと思いましたので

(文の解説)
●おとろへたる家:家運が衰えた家、業平の家をさしていうのだろう、もっとも実際にそうであったという証拠は乏しい、●三月のつごもり:つごもりは文字通りには月の末日だが、ここでは歌の趣旨からして、三月の末、くらいの意味合いだろう、今日の季節感で言えば、晩春にあたる、●雨そほふる:雨がしとしとと降る、●奉らす:奉らせる、「す」は使役の助動詞、

(絵の解説)
男が藤の花を折っているところ、面白いことにこの藤は、松の木に巻きついた蔓の先に咲いているように描かれている。

(付記)
藤の花を献上した相手は、語呂からして藤原氏の誰かだろうとする解釈がある。それによれば、業平は勃興しつつある藤原氏に対して、傾きつつある在原氏の立場から、これを献上したということになり、であるなら業平は、藤原氏におべっかを使ったのではないか、との解釈にも結びついた。







コメントする

アーカイブ