安倍晋三のブラック・パロディ:田中慎也の新作「宰相A」

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三年ほど前に「共食い」で芥川賞をとった作家田中慎也の新作「宰相A」がベストセラーになっているそうだ。題名が暗示しているように、この小説はある国の宰相、つまり首相の言動をテーマにしているのだが、その首相というのが、誰が読んでも安倍晋三のことだとピンとくる。その安倍晋三が、この小説の中では、全体主義の権化のように描かれているというので、日頃安倍晋三の言動に、親愛の感情を覚えている者も、忌避の感情を覚えている者も、こぞって関心を掻き立てられるということらしい。

筆者はまだこの小説を読んでいないが、いずれ近いうちに読むこととして、とりあえず、この小説を紹介しているサイトから孫引きの形で紹介したい。ニュースサイト・リテラに載った、「安倍首相のモデル小説を出版! あの芥川賞作家が本人に会った時に感じた弱さと危うさ  」という記事である。

この小説は、日本を舞台としている。と言っても、今の現実の日本ではない。戦後アメリカに占領された日本に、占領者のアメリカ人がそのまま住みついて、自分たち自身を日本人と称し、もともといた日本人を旧日本人と呼ぶようになった、というような変な設定の日本である。この日本という国の主人公は日本人に成り代わったアメリカ人なのだが、彼らは何故か日本の政治は、旧日本人の中なら選んだ人物に任せている。その人物こそ、宰相Aなのである。

宰相Aは、アメリカ人から変身した日本人の傀儡人形となって、アメリカの利益のために働くことこそが自分の使命であると理解している。彼の最大の使命は、アメリカの利益のために、旧日本人を戦争に駆り立てることだ。そんな宰相Aの演説は、実に勇ましい。次のような調子なのだ。

「我が国とアメリカによる戦争は世界各地で順調に展開されています。いつも申し上げる通り、戦争こそ平和の何よりの基盤であります。」
 「我々は戦争の中にこそ平和を見出せるのであります。(中略)平和を搔き乱そうとする諸要素を戦争によって殲滅する、これしかないのです。(中略)最大の同盟国であり友人であるアメリカとともに全人類の夢である平和を求めて戦う。これこそが我々の掲げる戦争主義的世界的平和主義による平和的民主主義的戦争なのであります。」(以上記事からの孫引き)

この宰相Aの発言が、その言いまわしと言い、内容と言い、安倍晋三の日頃の言動を彷彿させるというのである。とりあえず、こんなことを指摘されただけでも、是非読んでみようという気になるのではないか。

ともあれこの小説は、全体主義を揶揄したオーウェルの小説、たとえば「動物農場」のような、ある種のディストピア小説であるようだ。そのディストピアの中で、今の日本の政治家である安倍晋三がパロディ化されて描かれているわけだ(無邪気に笑っていられないから、ブラック・パロディというべきであろう)。

面白いことに、この小説を書いた田中慎也という人は、山口県の人、昔風に言えば長州人であるということだ。その長州人が、同じく長州人としてのアイデンティティを売りものにする安倍晋三を、このようにパロディ化しているわけだ。

徳川時代の昔なら、時の権力者をこんな風にパロディの材料にしたら、手鎖の刑に処せられたに違いない。日本はまだまだ、棄てたものではないようだ。








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