米紙ワシントン・ポストと安倍総理とのインタビュー

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米紙ワシントン・ポストが、安倍総理へのインタビューの全容を、3月18日付のコラムで紹介した(David Ignatius's full interview with Japanese Prime Minister Shinzo Abe )。安倍総理が4月に訪米し、上下両院合同集会で演説する事態を前に、安倍総理の発言がどのようなものになりそうか、事前にチェックしておきたいという趣旨のようだ。

質問は、安倍総理の経済運営から始まり、TPPを含めた日米関係の今後、militaristic と形容されるような安倍総理の政治姿勢、それとの関連で、歴史修正主義者 revisionist ではないかと批判される安倍総理の歴史認識、そして最後に改革への安倍総理の意思がどれほど強固なものなのか、というような諸点にわたった。

これらに対して安倍総理は、随所に日米関係の絆の強さを強調しながら、自分のやっていることは、アメリカのためにも利益になるのだと主張しているように見えた。言ってみれば、アメリカへの配慮に満ちた、アメリカ(オバマ政権)にとっては、非常に耳に心地よく聞こえるような内容だったと言えよう。

特に、TPPについては、近いうちにその妥結をやり遂げたいとする決意を開陳し、また、オバマ政権が危惧していると思われる歴史認識問題については、村山談話以降の歴代政府の公式見解を、「全体的に」 in its entirety 引き継ぐと明言した。この部分については、安倍総理が日頃述べている「全体として」の英訳にあたるのだろうが、「全体として」と「全体的に」では多少ニュアンスが異なる。そのニュアンスの相違は、この記事からは伝わってこないので、安倍総理は今後、従来の政府見解との整合性を、もっとわかりやすい言葉で説明する必要があるかもしれない。

従軍慰安婦 comfort women の問題については、安倍総理は、彼女らが人身売買human trafficking の犠牲者であるというような言い方をしているが、それについての、日本側の責任については述べておらず、彼女らがあたかも、日本政府とは関係のないところで、売買されたというような解釈をも許す結果になっている、実際、韓国側は、この発言を捉えて、安倍総理が、この問題についての日本の国家としての責任を回避していると非難している。

こんなわけで、概ね安倍総理に言いたいことを言わせ、それについて、インタビュアーが私見を差し挟むことはしていない。恐らく、完璧ではないにしても、優等生としての発言を引き出せたと思ったからだろう。

ワシントン・ポストといえば、リベラルなことで知られるメディアだ。だが、対外関係においては、アメリカの国益を重視する傾向が強い。アメリカの国益から考えて、彼らが日本に期待しているのは、経済及び安全保障の分野で、日本がアメリカのベスト・パートナーであることだ。今回の安倍総理の答弁は、そうした彼らの期待に、大きく応えたといってよいようだ。

しかし、安倍総理は、今後自分の発言に責任を持たねばならない。たとえば、彼は、日本はアメリカとの間で普遍的な価値観を共有していると言った。その価値観とは、国民の自由の権利の尊重であり、民主主義であり、法の支配である。安倍総理には是非、こうした「普遍的な」価値観を、今後もしっかりと守ってもらいたいものだ。少なくとも、対外向けに発信する言葉と、国内向けの言葉が一致するように望みたいものだ。





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