恋女房染分手綱・市川蝦蔵の竹村定之進:写楽

| コメント(0)
s11.jpg

写楽は、寛政6年5月の河原崎座の舞台「恋女房染分手綱」および切狂言「義経千本桜」から取材して10枚の大判錦絵を制作した。「恋女房染分手綱」は近松門左衛門の浄瑠璃「丹波与作待夜小室節」を歌舞伎狂言に仕立て直したものである。

近松の原作は、由留木家の姫の嫁入りと、乳人重の井の過去にまつわる話が中心になっているが、歌舞伎狂言では、これにお家騒動を絡めて、面白おかしくこしらえている。

現在この曲が上演されるときには、もっぱら乳人重の井の子別れの場面が演じられるが、写楽が取材した舞台は、その前段の、丹波与作が悪党たちによって迫害されるところを中心にしたという。

この絵は、市川蝦蔵演じる竹村定之進。定之進は由留木家のお抱え能楽師だが、娘の重の井が犯した不義密通の罪を身にかぶって、主君に秘曲「道成寺」を披露した後、鐘の中で切腹して果てるという役回りになっている。ただし、写楽が見た舞台では、その場面は含まれていなかったというから、これは恐らく原作の「訴訟の段」を参考にして、写楽が創作したものだろうと考えられている。

市川蝦蔵は、五代目市川団十郎が養子の四代目海老蔵に団十郎の名を譲ったあとに名乗った名。海老蔵と言う名は、自分もかつて名乗っていたので、海老を蝦に変えて名乗り直したということらしい。

五代目団十郎は、歌舞伎の歴史を飾る大俳優といわれる。名実ともに江戸歌舞伎の立役者であった。そんな彼を、写楽が敬意を込めて描いたのがこの絵である。写楽の大首絵の中でも、とりわけ風格を感じさせるものである。







コメントする

アーカイブ