
(四代目岩井半四郎の乳人重の井)
重の井は、由留家の家臣伊達与作と密通したが、父親の竹村定之進がその罪を被って切腹したことに主君が感じ、罪を許されたうえに、息女調姫の乳人に取り上げられる。重の井には、与作との間に設けた男子があったが、その子は自分の手を離れ、海道筋の馬子となっていた。
調姫が輿入れのために関東へ下る道中、重の井も従ってある宿場にさしかかる。そこで、馬子となった我が子三吉と劇的な体面をする。この絵は、その対面の場面における重の井を描いたものとされる。
右手にもっている守り袋は、息子と別れる時に、互いに同じ守り袋を取り交わした片割れ。それと同じものを馬子の三吉も持っていたことから、二人が母子であることが判明する、という場面だ。もっとも、この場面では、重の井は自分が母であることを認めず、そのまま立ち去って行くことになっている。
重の井を演じた岩井半四郎は、当時人気の女形。顔つきがふっくらとしていることから「お多福半四郎」のあだ名を持っていた。この役を演じた時には既に48歳と言う年齢だったが、写楽は、半四郎を若々しく描いた。役者の素顔を暴くことが得意な写楽にしては、破格の待遇だといえよう。

(二代目市川門之助の伊達与作)
伊達与作は、重の井と不義を犯したかどで父親から勘当されたり、主君から預かった大金を家来に預けたところそれを奪われたりと、あまりさえない役柄である。この絵からは、そんなさえない男の、男らしくもない様子が伝わってくる。
この場面は、父親から勘当を言い渡されて、おたおたする様子を描いたものだとされている。
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