調理台(La table de cuisine):セザンヌの静物画

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「調理台(La table de cuisine)」と題されたこの絵は、日本では「果物籠のある静物」として知られている。調理台の向かって右端に描かれている果物籠に着目した命名だろう。その果物籠だが、一見してほかのモチーフとの間で緊張感を醸し出しているのがわかる。台を含めた他のモチーフがななめ上からの視線で描かれているのに対して、この籠は真横から見られたように描かれているのだ。そのため、他のモチーフから孤立し、まるで空中に浮かんでいるようにも見える。

これは前作に引き続いて、複数の視線によって描くという、この時期にセザンヌが確立した独自の技法が反映された作品なのである。前景のモチーフの外、背景にも視線の交差が認められる。台がほぼ真正面から眺めた形なのに対して、背景にある物体や壁は斜め右手から眺められている。また、右端にちょこんとくわえられた椅子の脚は、斜めに傾いている。

画面中央のモチーフ群は、一見して無造作に配置されているように見えるが、よく見ると個々のモチーフは綿密な計画に基づいて配置されていることがわかる。その配置計画の核心ともいえるものは、ペアリングだ。どの果物も、単独では出てこない。かならず相棒を伴っている。たとえば、籠の中の洋ナシの相棒として、台の左手に同じような洋ナシが配置されているといった具合だ。

形だけではない。色彩も綿密に配置されている。それぞれの色彩が孤立しているのではなく、周囲の色彩と調和しているように感じさせる工夫がなされている。

(1888-1890年、キャンバスに油彩、65×81cm、パリ、オルセー美術館)








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