キャメロン勝利の意味

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イギリスの総選挙は、大方の事前予想に反してキャメロンの保守党が過半数を制する勝利に終わった。事前予想では、保守党と労働党はほぼ互角、どちらも過半数は獲得できず、一方自由民主党は後退、そのかわりにスコットランドの地域政党スコットランド民族党が躍進するだろうとされていた。自民党の没落とスコットランド民族党の躍進は予想通りだったが、保守党がここまで勢いを盛り返すとは、誰も予想しなかったことだ。この結果、キャメロンは保守党単独の政権を作ることができるようになった。

何が保守党を躍進させたのか。要因は二つあるようだ。一つはEUへのイギリスの関わり方、もう一つはスコットランド問題だ。EUへの対応については、労働党が引き続きEUに留まる方針なのに対して、保守党はEUからの自立を主張している、選挙前の公約では、2017年までにEUからの離脱の是非を問う国民投票を実施するとしていた。また、スコットランド問題については、労働党はスコットランドの自主性に理解を示していることから、有権者の中には、労働党を勝たせるとスコットランドの独立が現実味を帯びるかもしれないとの不安があったと言われる。こうした二つの要因が重なり、保守党が勝利したのだろうと考えることができる。

そこで当面問題になるのは、EUへの対応だ。もしキャメロンが公約通りにEUからの離脱路線を進めれば、イギリスのEU離脱が実現してしまうかもしれない。そうなれば、世界の政治的・経済的布置に大きな変動をもたらすことは間違いない。

何故保守党がEUからの離脱を目指すようになったか。保守党はもともとEUには懐疑的だったといえるが、ここにきて一気に離脱まで口にするようになったことの背景には、イギリス経済が好調を続ける一方、EUが迷走しているという事態がある。イギリスにしてみれば、EUというのは、もともとドイツをヨーロッパの枠組の中に抑え込んで置くことを目的として作られたもの。だがいまや、そんなことはたいして大きな問題ではなくなった。今更ドイツがヨーロッパの異端児となって、またぞろ世界大戦を仕掛けるようになるとは誰も考えていない。そういう状況の変化を無視して、いつまでもヨーロッパの統合にこだわるのはナンセンスだ。それよりも、自分の国の利益を優先して考えるべきだ。こんな考え方が、イギリスでは高まってきて、その声を保守党が代表するようになった、というのが流れの本筋なのだろう。

スコットランド問題については、これに火を点けたのはキャメロン本人だったわけだが、エリザベス女王から粗忽ぶりを叱責されたりして、いまではスコットランドの独立を語ることは厳に慎むようになった。その一方で、労働党の方は、あいかわらずスコットランドの独立に好意的なのではないか、そんな受け止め方が有権者の間に広がって、労働党の後退につながったのではないかと考えられている。しかし、その労働党がスコットランドでは壊滅し、そのかわりに議席の殆どをスコットランド独立党が占めるようになった。これまでスコットランドの議席は労働党がほぼ独占に近い状態だったので、これは皮肉な事態だと言わざるを得ない。労働党は、イングランドでは、スコットランドの独立に好意的なことを警戒され、当のスコットランドでは、独立を後押しする熱意に欠けていると受け止められたわけだ。







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