伊勢物語絵巻百二十五段(つひにゆく道)

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むかし、男、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ、
  つひにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとは思はざりしを

(文の現代語訳)
昔、ある男が病気になって、いまにも死にそうな心地に思えたので、辞世の歌を読んだ。
  最後には通ってゆく道とは聞いていましたが、昨日今日通ることになろうとは、思いませんでした

(文の解説)
●わづらひて:病気になって、●おぼえければ:思えたので、●昨日今日:さしせまった現在のこと、

(付記)
物語の最終段。ある男とは業平のことだろう。その業平が臨終に際して、辞世の歌を読んだことを紹介しているのであろう。なお、業平の臨終については、大和物語の百六十五段が次のように記している。

「水の尾の帝の御時、左大辨のむすめ、辨の宮すん所とていますかりけるを、帝御ぐしおろしたまうて後にひとりいますかりけるを、在中將しのびてかよひけり。中將病いと重くしてわづらひける、もとの妻どももあり、これはいとしのびてあることなれば、え行きも訪ひ給はず、しのびしのびになむとぶらひけること日々にありけり。さるにとはぬ日なむありける。病もいと重りて、その日になりにけり。中將のもとより、
  つれづれといとゞ心のわびしきに今日はとはずてくらしてむとや
とてをこせたり。弱くなりにたりとていといたく泣きさはぎて、かへりごとなどもせむとする程に死にけりと聞きて、いといみじかりけり。死なむとすること今々となりてよみたりける、
  つひにゆくみちとはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを
とよみてなむ絶えはてにける」







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