ギリシャのデフォールトで本当に困るのは誰か

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ギリシャが国債の返還期限を前に資金の手当ての見込みが立たず、このままではデフォールトに陥る可能性が非常に高いと言って大騒ぎになっている。ギリシャの債権者であるIMFやECBなどは、デフォールトによって損失を蒙るのは債権者だけではなく、ギリシャ国民も困るのだから、ギリシャ国民はこれをもっと真剣に受け止めて、ユーロの差し出している再建プランを飲むべきだなどと主張しているが、果たしてそうだろうか。

当面一番困るのが債権者であることは間違いではない。なにしろ貸した金を期限通りに返してもらえないのだから。しかも返してもらえない可能性は、今後とも持続し、場合によっては全く返ってこないことも考えられるわけだから、債権者としては気が気でないだろう。

一方彼らが言っているように、ギリシャの国民もデフォールトによって損害を被るのだろうか。たしかに、ギリシャがデフォールトに陥れば、ギリシャの金融秩序は一時的に崩壊し、それによって損害を被る者は出るだろう。しかし、一般のギリシャ人が、デフォールトによって被る損害は、デフォールトを避けるために支払わねばならないコストに比較して、大きいとは言えないのではないか。というのも、IMFやユーロ圏の債権国がギリシャ人に要求している改革案なるものは、ギリシャ人の生活など考慮の外だと言わんばかりに過酷なものだ。その改革案を受け入れろということは、ギリシャ人に塗炭の苦しみを舐めろと言うに等しく、例は悪いが、娘を売ってまで貸した金を返せと言っているようなものだ。

スティグリッツ博士がかねがね強調しているように、IMFの悪いところは、貸した金の回収ばかりを考えることであり、その回収の厳しさによって、当該債務国がひどい目にあっても、何ら気に病むところがないことだ。IMFの過酷な取り立てによって、国民経済が深刻な事態に陥った例は、90年代のアジアや南米の金融危機などに見られた。今回IMFがギリシャに対してつきつけている債権回収プランは、その何倍も過酷なものだ。それは、ギリシャ国民の纐纈を絞って国際金融資本の利益を守ろうとするに等しい。

だから、ギリシャが国民投票まで実施して、国民一丸となって債権者たちの邪悪な思惑に立ち向かおうというのには、一定の根拠があると言うべきである。

もしデフォールトが実現したら、その先にはギリシャのユーロ圏からの離脱が待っているだろう。これについても債権国は、ギリシャ人に対する打撃と言う点ではデフォールトに劣らず深刻だと宣伝しているが、それも大した根拠はないと言うべきだ。ユーロから離脱すれば、ギリシャは再びドラクマを採用することとなる。つまり自前の通貨を持つことになるわけだ。自前の通貨を持つことは、ギリシャにとって、金融政策の自主性が高まることを意味する。自主的な金融政策によって、財政構造の再編もできるようになる可能性がある。

このままユーロ圏にとどまっていても、ギリシャにとっての政策選択の幅は殆ど変らないと思われるから、大胆な改革をするためには、むしろユーロ圏から離脱して、自主的な金融政策を実施した方が、救いがあるというべきである。

以上からすれば、ギリシャのデフォールトによって一番困るのは債権国だということがわかる。そんなわけだから、フランスはともかくドイツまでが、ギリシャのデフォールトをなるべく回避するように、妥協案を考えるようになった。しかし今の所、債権国はあまり譲る気はないようだ。

デフォールトに陥ったからと言って、ギリシャの借金が帳消しになるわけではない。ギリシャの借金はユーロ建てだから、ユーロの金額表示のままで、いつまでも借金として残りつづけるだろう。だから、ギリシャの本物の財政再建のためには、このユーロ建ての借金をどう処理するかが問題となる。

財政再建の優等生として、第二次大戦後のイギリスの例がよく出されるが、この時のイギリスの借金は大部分ポンド建てだった。だからポンドの価値の切り下げによって、借金の大部分は帳消しにできた。いまのギリシャには、この妙手が利かない。借金はユーロ建てであり、しかも債権者の中心は海外資本だ。こういうのは過去に例がない。こういう事情の中で、ギリシャがどのように財政再建を図っていくか、なかなか難しいことも事実だ。







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