水上から東京を眺めるその一

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(浅草橋の船宿三浦屋)

東京を描く市民の会の皆さんと屋形船に乗って、水上から東京の街を眺めた。前野会長の計らいで、浅草橋の船宿三浦屋から屋形船を出してもらい、神田川、日本橋川、亀島川を周航し、晴海の先から相生橋をくぐり、隅田川から再び神田川に戻って来るというもので、40名ほどの会員が参加した。

7月12日の10時半ごろに都営地下鉄浅草橋駅の入り口付近に集合し、11時に屋形船に乗り込んだ。船宿は浅草橋の上流寄りのたもとにある。この付近には、三浦屋の他に、小松屋とか田中屋とかいった船宿が集まり、ちょっとした遊びの空間となっている。

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(万世橋)

船は左衛門橋、美倉橋、和泉橋などの下を次々とくぐり、やがて最初の名所万世橋に差し掛かる。この橋はコンクリートでできているが、石の肌合いを感じさせるので、神田川にかかる橋の中では、聖橋と並んで美しい風情を醸し出している。

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(聖橋)

聖橋は昭和の初年に作られた橋で、当時流行したドイツ表現主義の影響を強く受けていると言われる。ドイツ表現主義の土木設計への影響がいかなるものか、筆者はつまびらかには知らないが、流線的なデザインがその一つの特徴だという。たしかに、この橋は流れるような線の美しさがポイントだ。名前の由来になった聖が、湯島の聖堂と駿河台のニコライ堂からとったことは周知のことだ。

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(神田川の斜面)

聖橋のあたりから、神田川は両壁が聳え立ち、深い渓谷のさまを呈する。その渓谷の斜面の眺めが、左右でかなり異なるのは、神田川を隔てて向かい合う文京・千代田両区の、都市美感に対する考え方の相違が現れているのだと、船頭さんが説明してくれた。文京区側は、美感に配慮してなるべく美しい眺めを現出するように努めているのに対して、千代田区側にはそのような配慮がないとみえ、斜面は武骨なコンクリートが覆うばかりというのである。それに目障りな構築物が我が物顔に視界をふさぐに至っては、見ている方ではあきれた思いにもなる。

小石川橋の手前で左に折れ三崎橋をくぐると日本橋川だ。この川は、徳川時代の初め頃には平川の本流に当っていたが、神田川が掘削され、平川が神田川に流れ込むようになって、平川の下流部分であった今の日本橋川は、神田川とも切り離され、ただの水溜りなってしまった。それが、明治以降になって、日本橋川と神田川が接続され、今のような形になったのである。

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(外堀石垣の野積み)

日本橋川を暫く進むと、そこは旧外堀の一部とあって、あちこちに石垣の残存部分が見られる。これらの石垣は、徳川幕府が各地の大名に号令をかけて作ったものだと言われる。石垣の作り方は野積みと呼ばれる技法。先日丹波に旅行した折に見た竹田城の石垣と同じ作り方だ。これは、なるべく自然を生かした作り方で、人為が少ないだけ丈夫なのだという。石垣の石をよく見ると、変った文様が刻まれているが、これは寄進した大名を示す符牒だそうである。

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(常盤橋)

船が更に進んでいくと、やがて常盤橋に差し掛かる。日本橋川に架っている橋としては、日本橋と並んで美しい橋である。ところが、この橋はいま改修の最中だということで、橋の結構の大部分が解体されているところであった。あのこじんまりとしたアーチを二つ並べた美しい橋が、このように見るも無残な姿になっている。アーチを囲む部分を除き、橋の石組みの殆どすべてが剥されていたのであった。もっとも、こんな眺めに遭遇することはめったにないことなので、考えようによっては、我々はラッキーな目撃者だったともいえる。

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(日本橋)

ついで日本橋が現れた。この川沿いの他のすべての橋と同じく、この橋も高速道路の無様な構築物に頭を押さえつけられている。筆者は、その無様な景色をなるべく緩和しようと思って、絵になるアングルを選んでシャッターを切ったのだが、やはり隠しおおせるわけではない。

それにしても、日本橋がこんな無様な姿になっているというのは、日本人として非常にはずかしいことだ。川の上部を蔽っている高速道路は、そろそろ大規模改修の時期を迎えているというので、それを機会に、是非取っ払って欲しいものだ。いまや、都心に高速道路を通すべき強烈な理由はないというから、なおさらそのチャンスだ。

この高速道路がなければ、日本橋川の魅力は飛躍的に高まり、東京都心の眺めもヴェニスに劣らぬ情緒豊かなものに変るはずだ。近未来には東京オリンピックも控えている。舛添都知事は是非大決断をして、日本橋川から高速道路を排除し、都心に美しい景観を取り戻してほしいものだ。新国立競技場のいかがわしいプランに巨額の都税を振る舞うよりは、日本橋川沿いの景観回復に金を使う方がどれほど有意義なことか、是非一考してもらいたいものだ。






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